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封印されし闇の力ってなんの話かあたしにも教えて?【短編小説】

「ちょ、待って待って~? アンタさあ、これどういうことお?」


同じクラスの柳田朋美やなぎだともみの隣を音もなく通り過ぎようとした際、ごちゃごちゃのネイルで固めた指先でぷすりと二の腕を刺された。

「いって」

「『いって』じゃねえし」

絶対この女、いま、言葉尻に(笑)をつけたに違いない。
そんな俺をバカにしたような口調で、柳田は続ける。

「あのさあ、コレ、なんであんたが持ってんのお?」

柳田のネイルは、俺の制服の胸ポケットからはみ出していた小さな折り紙をぬかりなく、ビシ!と刺した。

俺は心臓を撃ち抜かれた気持ちだった。
いや、けしてコイツに恋をしたわけじゃあない。この女みたいな、髪を傷めつけて金髪にして、休み時間にそれをわざわざぐるぐる巻きにして、周りに恥じる様子もなく化粧を始めるようなやつ。
俺が恋しているのは、同じクラスの………いや、その話はこの際どうでもいい。

「こ、これはただの折り紙で………」

「んなわけ、ねえじゃん」

柳田の目は俺を見透かすようにじっと動かない。

なぜだ?
なぜ、この女が執拗にこの折り紙を気にしている?

折り紙には、「魔力少女ポリス⭐キュアリン」の2世代前のヒロインたちがあしらわれている。小さく折ってこの俺の胸元に迎え入れているのだ。彼女たちは俺が守らなくてはいけない。そしてこの折り紙が重要であるのは彼女たちがいるからだけではない……
断じて知られてはいけなかったのに、しかもこんなヤツに………!

「ちょ、いったん見して」

「さ、さわるな!!!!」

俺は思わず声を荒げた。柳田はたじろぎ、他クラスの生徒も俺を見ているが仕方ない。こんなヤツだが、危険にさらすワケにはいかないか……。

「……お前の命を守るためなのさ。ったく、本当はこんなの、俺だって言いたくない……しかたない。少しついてこい」

俺はここでの説得を諦めて、屋上に続く階段へと彼女を誘導した。
はあ? とややキレ気味の声を出して後ろから付いてくるので、あの青いごちゃごちゃネイルで背中をやられるのではないかと内心、ヒヤヒヤしながら。
しかし、そんなことをされたって俺はやり遂げてやるさ。


屋上へと続く扉はしっかりと施錠されていた。致し方ない。その前に座り込んで、俺は声を殺して折り紙を取り出す。


「俺の聖なる恋文ホーリー・ラバーに触れると、ケガするぜ………。
『魔力少女ポリス⭐キュアリン』のこの限定折り紙に、俺が名前を書き、大切に肌身離さず保持しておくことで……本当に、この名前を書かれた人物は、俺に夢中になっちまうんだ。誰が書いても効果があるわけではないのさ。俺がこの子たちの折り紙に書くからこそ、こうなっちまう。
俺は普段は右利きだが、普段は左手を封印しているんだ。この左手が……アブねえのさ……魔力を持っちまってる。あんたも、俺のこの折り紙に触ったら危ないぜ。触るだけでも、ヤバイ可能性は十分あるのさ。いつ、俺に恋い焦がれ、身を燃やし尽くすことになr」

「あんたって誰が好きなん?」

こ………こいつ………
俺の魔力の前に、びびってねえ、だと………!?

「そそそそそそれはだな、他人に言ってしまうと効果がないのであってだ、な………」

「まあそれはいいわ。あんたさあ」


柳田のネイルが、俺の喉元を音もなく、ひた、と、とらえた。
な、なに………?!
目の前にいるのに、全く、見えなかった、だと………

「ねえ」

ネイルが喉の皮をとらえていて、俺は呼吸すらできないで柳田の目を見た。
淡い、ブルーの瞳だった。
こんな色をしているだなんて、知らなかった。




「あんた………あたしが『魔力少女ポリス⭐キュアリン』の『キュア⭐シールド』の生まれ変わりだってこと、どーして知ってるワケ? どこ情報?」






「………あ、えっと………初耳です、ね……………」

「は? じゃあなんで、2世代前の折り紙をわざわざ持ってるワケ? あたしの正体、気づいちまったってことじゃね?」

「えっとお……年の離れた妹があ……すっごい、好きだったんすよね………」

「は? まじ? はあーーーーーなるほどね。…………んじゃあ、しゃあないかあ」

ネイルが喉元を離れても、俺の心臓はなにやら不穏なリズムを刻んでいる。
えっと、これ、なんの感情?


「妹いるんなら最初から言えっての。何歳?」

「あ、えっと、7歳っすね……」

「あーーーーキュア⭐シールド的にはーーー7歳ならまあ、ギリ許すかな。ま、秘密は守れるっしょ? 会ってあげても、いいけど? ただねえ、あたしの魔力……門限厳守タイムリミット・シールドが働いちゃうから、ちょ、今からはマジ無理。今から行ってたらマジ、ママに怒られるし」

柳田はスマホを取り出して時間を確認しながら、そう言った。


「えっと、あの、なんのはなしですか」

「だからあ、会うならまあ、今度にして。あと、今後もあたしと家族ぐるみで会いたいとかだったらあ~~~ちょ、そこはちゃんとした関係にならんと。マジで。そういうのあたし、ムリだから。守るからそこんとこ。順番とか。
キュア⭐シールドはまだあ、恋愛制限ラブラブ・シールドが発動しちゃってっから、恋愛ができない運命なワケ。ほんと無理ーーー。。。でも仕方なくね? あたし、生まれ変わっちゃってっから」

柳田はそういうと、すく、と立ち上がった。
短いスカートの中が危うく見えてしまいそうで、俺は空気を見つめた。その辺の空気をぢっと見た。なにもない。なにも。

キュア⭐シールドの生まれ変わりを前に、俺はそのまま、動くことができない。話をしてはならなかったのだ。俺とコイツは出会ってはならなかったのだ。

―――本当にコイツは、今朝、朝から教室の端っこでずっと化粧をしていたクラスの女子のひとりなんだろうか。
鏡を一生懸命見つめながら、青いコンタクトを入れようと。何度も何度も、苦戦していたよな。
キュア⭐シールドのようなくるくるの巻き髪にしていたら、アイロンを充電するなって担任にまた怒られていたよな。


自分のネイルを見つめながら、柳田は声を少し細める。

「———でも、あたし。来週で、18になるよ」

そっと俺の側にしゃがむと、ささやいた。

「その時は。恋愛制限ラブラブ・シールド解除するから。

あんたの……佐々木の、魔力。発動しても。いいけど?」



じゃ、ね。妹、大切にしなよね。

柳田はスカートを翻して、颯爽と階段を降りていく。



…………水色、か……………。
いや、俺は何も見てはいない。
聞いてもいない。


でも…………

俺の左手が、うずいてやがる。


柳田が18になったとき。
俺はこの魔力を、あの戦士に捧げることになるんだろうか。

俺が犠牲になるってか。


俺の人生はこんなことばっかりさ。未来ってのはわからねえ。
しかし、悪くないよな。こんな人生も。




俺は憧れのあの子の名前を2年したためていた折り紙を、胸ポケットから出した。
それをそっとカバンに入れて、階段を静かに降りた。






仲間たちが中二病をおおいに発揮しているのを見て、参加したくなってしまいました!
アルロンさん、また企画にお邪魔しております✨
中二病ギャル・柳田ちゃんをよろしくお願いいたします💛


やっぱり入れてしまう。
この言葉がないといけねえ身体になっちまってるのかもしれません。
怖い。戻れない。でも本望です。お忙しいところ失礼しました(深々)






#封印されし闇の力を解き放て
#なんのはなしですか


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