小説を書く。その74【BL小説】
背後から迫る不吉な影。
大慌てで逃げるが、操作を誤り、壁際に追いつめられる。
もうダメだ! と覚悟を決めたとき。
――電光一閃。
「大丈夫か?」
「助かったぁ……」
放課後はいつも俺ん家で田辺とオンラインゲーム。小学校の留守家庭で友達になって、中学高校と同じ学校で、家も近所。時を同じくして同じゲームにハマった。
何人かでチームを組んで、敵を倒して行くバトル物だ。ダンジョン内で、もう少しでやられそうだったところを助けてもらった。
田辺のゲームキャラは、背中に背負うタイプの両手剣を扱う。的中率は悪いけど、攻撃力は抜群だ。
考えてみたら、俺いっつもピンチの時、田辺に助けられてるなあ。
「田辺……」
「ん?」
「なんか……ありがとな」
そう素直に口に出して顔を上げると、思った以上に田辺の顔が近くにあった。
あれ。
田辺って、こんなに睫毛長かったっけ。
もっと近づいてよく見たい。
そう思って膝をずい、と進めたら田辺が一歩退いた。なんかカチンと来て、もう一歩にじり寄ったらまた下がる。
なんだよ。
しばらく無言の攻防が続いていたが、テレビ画面を見た田辺が「あ」と指差した。
「エンカウントしてる」
「えっ」
このゲームは黙って立ってても勝手に敵が襲ってくる。無防備な俺たちをモンスター共がよってたかって攻撃している。
「やばっ、回復しないと」
「おい一旦逃げるぞ」
くるりと踵を返して敵前逃亡を図る。そんなときでも、田辺は俺を先に逃がして敵を払い除けつつ、俺の後についてくる。
優しいんだよな。頼りがいあるし。ついでに男気もある。
もしかして、俺にだけ、なんだろうか。
そう思い至ると、なんだか隣にいるのが急に、照れくさくなった。
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