小説を書く。その15【BL小説】
それは、鮮烈な印象だった。
彼の絵を目にした途端、俺の目には涙が溢れ、全身の肌が震えた。
これほどに繊細で、華やかな絵を見たことがなかった。
こんな絵を描く人間は、どんな人物なんだろう。
――そう思ってわくわくしていたのに。
電話の呼び出し音がずっと耳元で響く。
なかなか出ない相手に苛立ちが募る。
留守電に切り替わったのをすかさず切って、何度目かのリダイヤルを開始する。
何やってんだあのひとは。
やっと呼び出し音が途切れた。ふぁい、と寝惚けたような声が聞こえてくる。
「……今起きたんですか」
「ん。おはよー」
ふああああと、欠伸をしながらそれでも挨拶を返してくれる。すでに昼を過ぎてかなりの時間が経っているのだが。
「今日、何の日か覚えてますか」
「今日?」
んー、と首を捻っている姿が目に浮かぶ。
「……なんだっけ」
えへへ、とごまかすように笑い声。
俺は息を大きく吸った。
「今日はサイン会だっつったろうが! 早く目ぇ覚まして来やがれこの野郎!」
毎日こんなにイライラさせられるのに、離れることは考えられない。
そんな自分にも呆れながら、俺は電話を切ったばかりのスマホを見て、ふっと苦笑をもらした。
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