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小説を書く。その3【BL小説】

 なんで、僕ばっかり。

「よお」

 また来た。
「あのさあ……数学のノート貸してくれよ」
 なんで僕の? 君の周りには頭のいい友達いっぱいいるじゃんか。

 クラスの人気者である彼。隅っこの席でいつも本ばかり読んでる僕。同じクラスでもなければ、交わることなんてなかっただろう。

「ほら、早く。昼休み終わっちまう」

 急かすように、右手を突き出して来る。すらっとした長い指。そう、指も長いけど、手足も長いんだよな。いつも図書室から陸上部の練習見てるから、知ってる。

 僕はしぶしぶと机の引き出しからノートを取り出す。ほっとしたように彼は少しだけ頬を緩め、それを受け取った。かすかに指先同士が触れ、何故かどきりとする。

「サンキュな」

 そう言うと、自分の席へと戻っていく。昼休み中に写してしまうつもりなのだろう、さっそく自分のノートとペンケースを取り出した。

「なんだよ、またあいつに借りたのかよ。俺に言えばいいのに」
 いつも一緒にいる別のクラスメイトが彼に話しかけている。
 そうだよ、なんで僕に。
 彼だったら、ノートを貸してくれる友達なんか、いっぱいいる。明るくて、話題も豊富で、運動神経もよくて。勉強はちょっと……みたいだけど、そこがまたご愛嬌というか。
 笑った顔がすごく眩しくて。ずっと見ていても飽きない。走ってる姿もすごくカッコいい。
 そんな彼が、なんで僕に。ただ、クラスが同じというだけの僕に。

「うっせえなあ……何だっていいだろ。たいした理由なんてねえよ」
 だってなあ、とか、なんでわざわざ、とかまた突っ込まれて、彼は「あーもうっ」と両手を振り上げた。

「こいつの字が見やすいから! それだけっ」

 そう言い放つと、彼は二冊のノートを持って立ち上がった。長い足が机の間をさくさくと抜けていく。けど教室を出る間際、ちらりと僕の方を向いた。

 あれ。
 見たことないカオ。
 困ったように眉をひそめて。その頰はほんのり赤く染まっていた。

 あれれ?

 そして何故か僕の頬も、のぼせたように熱くなっているのを感じていた。


 
 

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