![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/149617911/rectangle_large_type_2_3205a694a8679d04cb82646952cbe629.png?width=1200)
小説を書く。その26【BL小説】
国道沿いに、ぽつんとあるコインランドリー。
もっと街中にあったほうが儲かると思うのだが。まあ、俺みたいに誰とも会いたくないような人間には好都合だ。
独り身ではそんなに毎日洗濯物が溜まるものでもない。第一、洗剤というものをとんと買ったことがない。
コインランドリー様々だな。
独りごちて、俺は自嘲気味に笑った。
ところが今日は、なんと先客がいた。
「こ……こんばんは」
長い髪を揺らして、その少女は俺にぺこりと頭を下げた。
こんな夜中に。一人で?
「こんばんは」
ぼそりとつぶやくように返して、俺はその子からずっと離れた機械を選ぶ。
一応、物書きの端くれとして生業をたてている俺は、いつもなら待ち時間にノートパソコンを開いて仕事に励むのだが、どうも集中できそうにない。
見ているのだ、あの子が。
コインランドリーの端からずっと。
何なんだ? 一体。
ちらりと顔を上げると、さっと目を逸らす。
それが何度か続き、とうとう俺はテーブル席から立って、つかつかと彼女に近づいた。
「おい……」
俺の声に被せるように、その子が口を開いた。
「あのっ」
派手な化粧。幼さを残す顔には似合っていない。
「おにーさん、アタシを買わない?」
「は?」
売春か? いやいや、もっと相手を選べよ。子供と言ってもおかしくない年の差だぞ。
――それに。
どん、とすぐに折れそうな体を壁に押しつける。ほっそりした肩がびくんと跳ねた。
「お前……」
手を伸ばすと、ぐっと髪を掴む。安っぽいカツラがするりと外れた。
「男だろ」
大きな目をさらに見開いて俺を凝視してくる。なんでバレたんだって顔だな。そりゃバレるよ、そんな下手くそな化粧で。あと歩き方だな。
顔をくしゃっと歪め、どうしていいか分からないといった風だ。薄汚れた蛍光灯がそいつの潤んだ瞳に溢れる涙を反射させた。
演技じゃない。演技なのは先程の女の子の振りの方だ。
「……俺を連れて行かないとお前が困るのか」
恐る恐る、というようにそっと顔を上げる。そして小さくこくりと頷いた。
こんなガキに働かせて自分は何もしねえゲス野郎がいるらしいな。
俺はふう、とひと息つくと、頭を掻きむしった。
「分かった。連れてけよ、そいつのとこまで」
「え、いい……の?」
お金取られるよ、と俺の心配をしてくれる。
「そうかもな。まあ、それならそれで」
いいネタになるかもしれないしな。
その夜、この少年を助けたことが、俺のこれからの人生を揺るがすことになろうとは、この時は露とも思わなかった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?