第二子出産記録 -分娩台へ駆け上がる-
臨月で2歳児と暮らすのは大変だろうと、はるばる京都から母が手伝いに来てくれて2週間が経った妊娠39週。
母のおかげで日常生活が格段に楽になったせいか、お腹の張りも落ち着き、まったく生まれる気配がなく、母の滞在が長くなるにつれ、なんだか申し訳なくなってきた。
39週の健診日。
子宮口はまだ開いていない、赤ちゃんもまだそこまで下りてきていない、とのこと。胎動の足の位置は明らかに下がってきているのに、まだまだなのか... と、ちょっとがっかりすると、先生から「ただね、初産とは訳が違うから。スイッチが入ったらすーぐ始まるから」と、強く念を押される。
翌朝、トイレに行くと出血していた。どう見ても、おしるしだ。よっしゃ、おしるし! おしるし! 来たぞ、来たぞ! と、テンションが上がる。
娘のときは最初におしるしが出てから1週間で出産となった。とりあえず予定日を超えることはなさそうでひと安心。
その日は1日中出血が続いていて、恥骨痛もあり、陣痛が近い気がした。ただ、翌朝6時の電車で夫が1泊2日の出張へ立つため、出張から戻ってから陣痛が来たらちょうどいいなーなんて思っていた。
夕方、レンタル予約していたベビーベッドが届く。保育園から帰ってきた娘は、いち早くベッドを見つけ、「これなあに?」と聞く。赤ちゃんのベッドが届いたよ、赤ちゃんもうすぐ生まれるからね、と教えた。
夫が帰宅すると、娘は「お父さんにも見せたげる」と、夫の手を引いて寝室へ連れて行き、「赤ちゃんのペッド」と夫に説明していた。そして、「赤ちゃん、もうすぐ来まーす!」と言いながらリビングへ走っていった。
その声が合図だったのか、娘を寝かしつけようと絵本を読んでいる最中から、おなかが痛み始めた。といっても、生理痛とも呼べないほど弱い痛み。ただ、規則的に痛みが来るので、間隔を測ってみると、10分を切っている。経産婦なので、陣痛の間隔が20分を切ったら病院へ連絡することになっていた。
陣痛は2回目なので、来たら絶対に分かると思っていたのに、全く分からない。これは、ただの張りか...? 我慢できるだけで、弱い陣痛なのか...?
22:00。念の為、病院へ電話してみる。「陣痛かどうか分からないんですけど...」と、相談。1時間ほど様子を見ることになった。
入院の準備を整えてから、再びベッドに横になる。しばらくして、痛みが少し強くなってきた。あー、はいはいこれ、間違いなく陣痛やわ。
23:00。病院へ電話して、今から行くと伝えた。ぐっすり寝ている娘を母に託し、夫の運転で病院へ。雨が降っていた。陣痛の間隔は10分以内だけど、しゃべれる程度の痛み。
23:30。病院に着いて子宮口を確認してもらうと、3センチだった。NSTで陣痛の波も確認し、入院が確定する。付き添いは子宮口が7センチになってからというルールだったため、夫には一旦帰ってもらう。
陣痛室のベッドでストレッチをする。安定期から続けていた自力整体で体をほぐして、なんとか夫がいる朝までに出てこい! と念を送る。
今回の出産に当たって私の最大の希望が、夫に立ち会ってもらう、ってことだった。
娘の出産でも立ち会ってもらい、分娩の瞬間は痛過ぎて、もう立ち会いとかどうでもいいわ!って気持ちだったんだけど、あとあと、立ち会い出産のことを夫婦で話す機会が意外とあって、そのたびに夫が感慨深そうに話すので、夫にとっても出産の瞬間が私と同じくらい強烈な映像として頭に焼き付いていることが分かって嬉しかった。
娘を育ててきたこの2年7か月は、私のワンオペが多かったけど、その始まりの瞬間だけは、夫婦共通の経験になっていることが、とても心強かった。
というわけで、今回は前回以上に立ち会い出産を希望していた私。夫の出張と被る今日だけは避けたかったのに、まさかその日に陣痛が来てしまうなんて。こうなったら、意地でもあと数時間で産むしかない。
陣痛室で一人、黙々と自力整体を続け、股関節を広げ、三陰交を押しまくった。
午前1:00。子宮口は5センチ、陣痛は5分間隔。まだまだ耐えられる程度の痛み。陣痛の合間にウトウトする余裕もある。
午前2時。助産師さんが部屋に来て、「どうですか〜?」と言われ、「まだ5分間隔で、我慢できる範囲で...」と言った途端、今までより強い陣痛が来た。尻にくる痛み。本気の陣痛、始まった!
その波が収まったあと尿意があり「ちょっとトイレへ..」とトイレへ入ってすぐ、次の陣痛が来てしまい、パンツも上げずにトイレのドアを開け、「また来ましたっ! いいい痛いっ!」
5分どころか2分間隔ぐらいになってないか?!ってことで、即内診。「子宮口7センチですっ!」と助産師さん。横から先輩っぽい助産師さんが手を突っ込んで「いや、もっと開いてる! 分娩台へ!!」となった。
慌てて夫へ電話。「旦那さん、すぐ来てください!」と助産師さんが叫ぶ。車椅子で分娩室へ移動し、分娩台へかけ上がると、助産師さん二人が慌てた様子で分娩の準備に取りかかる。
一人が導尿(イタイ)、一人が点滴準備(失敗されてちょっとイタイ)、その状態で陣痛の波が来て(めっちゃイタイ)、三方イタイのまるで拷問。助産師さんたちが若干焦っている様子に私もつられて、それまでの落ち着きを完全に失った。「痛い痛い痛い! もっと押してください! もっと強く〜!」といろいろ騒いでいた。
娘の時は修行僧のように静かに耐える妊婦だったんだけど、なぜか今回は騒がないとやってられなかった。
陣痛のたびに腰が反って上がってしまう。でも、それだと赤ちゃんがうまく下がってこれないので、腰を椅子につけるように言われる。「でもそれやると痛いんですよ!」とかワーワー騒いでた。
ここで、どう見てもベテラン助産師さんが登場。この人がめちゃくちゃ落ち着き払っていて、私の目を見て一緒に呼吸をして、的確な指示を出してくれたおかげでようやく私も落ち着きを取り戻した。
「旦那さん間に合わないかも」と言われ、もうすぐ出てくると分かる。よし、いくぞ!
指示に合わせていきむと、赤ちゃんがぐぐぐっと下に下がってきた感覚があった。いきむ時も、獣のような声が出てしまう。
ここで夫が到着。顔は見えないけど、夫の応援する声が聞こえる。いつもと違うその口調で、夫が緊張していることが分かった。
破水した瞬間、じわっと温かい水が広がったのを感じた。その後、頭が股に挟まっているのが分かる。これがまた痛い。先生が来て会陰切開してもらい、助産師さんの指示に合わせて呼吸をしていると、ブルンと赤ちゃんが出てきた。出た瞬間、何もかもの痛みから解放される。
娘の時は、産む前の10時間以上、テニスボールの上で陣痛に耐えていたせいか、尻の感覚がなくなってしまい、赤ちゃんが下がってくる感覚も、出てくる感覚も感じることができなかったけど、今回は"出てきた!"というのがよく分かった。
夫の登場から5分ほどで誕生。間に合ってよかったね、元気で生まれてきてよかったね、泣き声が娘より小さいね、と言い合った。
本格的な痛みが始まって30分ほどで生まれてきたので、今回はテニスボールを使う必要もなかった。体はめちゃくちゃ元気だし、股の傷も浅くて、円座も痛み止めも必要なかった。キャサリン妃なみのスピードで退院できるんちゃうか? と思ったほどだ。
娘の時は臍の緒が首に三重に巻き付いていたり、酸素ボンベをつけたり、人工破水をしたり、促進剤を打ったりと、今思えばいろいろあったけど、今回は本当にスムーズに出てきてくれた。娘が道を切り拓いたおかげなのかな。経産婦は進みが速いと聞いてはいたけど、ここまでとは思わなかった。
とにかく元気だったので、出産当日から母子同室を始め、初めての男の子育児が始まった。
オムツ替えの時、早速ちょっと驚いた。小さな象さんがついているのは分かってたけど、象さんの後ろの黒い岩みたいなの、なんだ...? 赤ちゃんらしからぬ、かわいくない物体。ウンチまみれになったら、どんな力加減で拭けばいいのかも分からないぞ。
女子と男子の違いとか、第一子と第二子の違いとか、これからいろいろ分かってくるのが楽しみ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?