すべての駅から名前がなくなった、きっとそれは天国に近い

すべての駅から名前がなくなった

きっとそれは天国に近い

山手線は真っ白な輪になり

その中をグルグルと

永遠に回り続ける電車は

どこに止まればいいのかわからずにいます

雨に濡れても、顔色ひとつ変えないけれど

反対回りの電車とすれ違う時だけ、実は少しホッとしています

安心感が徐々に電車内に染み渡り

4号車のつり革はモッツァレラチーズみたいに溶けて伸びます

掴まってたサラリーマンは、地震に逆らえないフィギュアみたいに背筋を伸ばしたまま次々と倒れていきます

その一方、電車と感情を同期した、基本的に仏頂面の駅員がホッとしすぎてうんこを漏らします

誰かが気の利いたことを言う時の声で「お漏らし」みたいに「ホッ漏らし、だ」と呟いたけれど

電車内の誰もが「聞いてなかった」みたいな顔を大急ぎでし始めた


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山手線は輝きだして、夜の出入り口である満月から巨大な逆子が産まれた

蛍光灯みたいに光る山手線をめがけてゆっくりと落ちる逆子は

山手線とドッキングして、逆さまの、巨大な天使が完成した

天空からネロとパトラッシュの死体が舞い降り、宇宙服を着た我愛羅が天国への階段を登り始めた

巨大な天使は天国の言葉で泣きわめき、騒音おばさんは布団叩きで16ビートを刻み、すべてのコオロギはセミに姿を変え、秋の夜長は夏へとタイムスリップした

宅配業者はお中元を回収しに来て、目覚まし時計は一斉に鳴り始め、ウルトラマンはカラータイマーが鳴っても帰らない

騒音は飛鳥時代まで届き、聖徳太子の耳が破裂して、宇宙ステーションは爆発した

横須賀線を走る電車は逃げるように都内から離れ

女性専用車両の連結部分に太宰治の霊が挟まっているせいか、線路を無視して海へと直進し始めた

緩やかな自殺が行われている車内の、電光掲示板には「電車失格」と書かれている

フォワードの背後霊に押し倒され線路に落ちた日本代表

駅員がイエローカードが掲げて「あと2枚で成仏できるね」と背後霊に優しく声をかける

人身事故のアナウンス、鳴り響く目覚まし時計、新しい地獄の完成を祝福するファンファーレ

脳震盪が当たり前の日常が始まり、感情を配るサンタが揺れながら煙突にぶつかって死んだ、袋から溢れだしたむなしさが廃油みたいに屋根にへばりつく

感情を配るサンタの袋からこんにちは僕悲しみと言います

そしてアナウンスが始まる

「色んな怨念を請け負ってJRが自殺しました、電車はもうどこにも向かいません」

線路の真ん中でまだ色づいていない無色透明なカマキリが立っている

小さい頃からお金をもらうことが好きでした