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宮入菌は大腸バリアの回復と抗炎症作用で腸の炎症を抑制する:ミヤリサンの解説(2)
下痢はなぜ起こるのか
便は通常、睡眠中に水分を吸収されながらぜん動運動で直腸近くまで運ばれます。そして起床後、朝食の「胃結腸反射」で直腸まで運ばれると「直腸肛門反射」によって便意を催して便を排出します。
これが「排便リズム」であり、この仕組みを理解すれば排便には「睡眠時間」と「朝の時間」が重要であることがわかります。
しかし、日常生活の様々な原因によって排便リズムが乱れ、自律神経が乱れて腸内環境が乱れると下痢や便秘などの便通異常が起こるようになります。下痢が起こる原因については現在、次の4つが考えられています。
1.浸透圧性下痢
小腸で消化吸収されなかった成分がその後も高い濃度で腸管に留まると、腸管内の浸透圧(水分を呼び込む働き)が高まり、これを希釈(薄める)するために多量の水分を腸管内に呼び込んで下痢を起こします。
牛乳やヨーグルトなど乳製品を飲食して下痢になるのは、この浸透圧性下痢によるものです。
乳製品に含まれる「乳糖」を分解するラクターゼが少ないために乳糖を分解できず、浸透圧が高まって下痢が起こります。
2.運動亢進性下痢
何らかの要因で自律神経が乱れると、腸のぜん動運動が過敏に、過剰になって便の水分が吸収される前に排出されて下痢を起こします。腸が過敏になっているので、少しの刺激で腹痛を伴う場合があります。
何らかの要因とは、香辛料や刺激物などいわゆる辛いものや冷たいものの摂取、暴飲暴食やストレスなどです。代表的な疾患に過敏性腸症候群があります。
3.分泌性下痢
細菌による毒素やウイルス感染によって腸管粘膜が損傷すると、粘膜から過剰な水分が分泌されることで起こる下痢です。食中毒による下痢はこれにあたり、発熱や吐き気を伴う場合があります。
4.滲出性下痢
腸粘膜に炎症や潰瘍が発症すると、血液や腸の細胞から滲出液(しんしゅつえき)が滲み出て、便の水分量が増えて下痢が起こります。下痢が続いて血便が出たら腸の炎症が疑われます。代表的な疾患に潰瘍性大腸炎やクローン病があります。
では、なぜ腸が炎症するのか。その原因は何か。
腸の炎症は悪玉菌増殖による大腸バリアの崩壊から始まります
大腸バリア機能と酪酸菌
健康な人のお腹の腸内細菌は次のような割合で腸内環境を保っています。
善玉菌2:悪玉菌1:日和見菌7
これがストレスなどで自律神経が乱れると悪玉菌が増えて、そこに日和見菌が加勢して腸内環境は乱れます。腸内環境が乱れると腸管に様々な悪影響を及ぼしますが、その一つが「大腸バリア」の崩壊です。
1.善玉菌の減少
健康なお腹は善玉菌が腸管を弱酸性にすることで悪玉菌増殖を抑制していましたが、善玉菌が減少すると悪玉菌が増殖して、腸管はアルカリ性に傾いて悪玉菌が増殖しやすい環境になります。
また、善玉菌が減少することで腸管へのエネルギー供給も減少して、大腸バリア機能の一つである「粘液層」が弱体化します。
2.粘液層の弱体化
粘液層の粘液は腸管粘膜から分泌されますが、善玉菌が減少して腸管のエネルギー供給が減少すると分泌される粘液も減少して粘液層は弱体化します。
粘液層は腸管粘膜を覆うことで「物理的に」悪玉菌の侵入を防御していますが、粘液層が弱体化することで悪玉菌は腸管粘膜と接触して粘膜に侵入する機会が増えていきます。
3.粘膜層の弱体化
粘膜層は上皮細胞同士が密接に結びつく「タイトジャンクション」によって大腸バリアを形成します。
しかし、腸管のエネルギーが減少した粘膜層は少しずつ綻び始め、悪玉菌との接触が増えて侵入を許すようになります。
その結果、粘膜の炎症が始まり、毒素や有害菌は血液にのって全身に運ばれて症状が現れるようになります。
このように善玉菌が減少して悪玉菌が増殖すると少しずつ大腸バリアが弱体化してやがて破綻に至りますが、その原因の一つは腸管のエネルギー供給が減少したためです。
このエネルギー供給の大部分を善玉菌の一つ、酪酸菌が産生する酪酸が担っています。
つまり、酪酸が減少すると大腸バリアは崩壊しやすくなります
炎症性サイトカインと酪酸菌
免疫細胞には強い攻撃力を持つ細胞とそれを抑制する細胞があり、二つの細胞がバランスを保ちながら身体への異物の侵入を防いでいますが、腸内環境が乱れると免疫システムのバランスが崩れて、攻撃する細胞が活性化して強くなります。
自然免疫細胞であるマクロファージと樹状細胞は腸内環境が乱れて活性化すると、TNFαやIL12(インターロイキン12)といった炎症を起こす物質、炎症サイトカインを分泌して炎症を起こします。
一方で、免疫を抑制する細胞の制御性T細胞(Treg)は抗炎症サイトカインであるIL10(インターロイキン10)を分泌して、マクロファージや樹状細胞の活性化を抑制します。
この炎症抑制作用により炎症サイトカインの分泌は制限されるので炎症は限定的となり、IL10を分泌するTregは活性化した免疫を抑制して抗炎症作用の役割を果たします。
このTregを産生するのが酪酸であり、大腸炎モデルのマウス実験では酪酸の投与後にTregが増殖して大腸炎が抑制された報告があります。
酪酸は抗炎症作用のTregを産生、増殖する
プロスタグランジンと抗炎症作用
プロスタグランジン(PG)は炎症が発症したときに痛みを大きくする物質として知られていますが、その他にも様々な作用があります。
・発熱
・血管拡張
・胃液分泌抑制、など
PGの産生を抑制することで痛みを鎮める鎮痛成分のイブやロキソニンは「NSAID」の一種で、NSAID製剤に分類されます。
NSAID製剤の副作用として有名なのが胃が荒れるなどの「胃粘膜障害」ですが、添付文書の「相談すること」には気になる疾患があります。
潰瘍性大腸炎やクローン病がある人は相談すること
この2つは炎症性腸疾患の代表的な疾患であり、PGと炎症には関わりがあることがわかります。その研究報告を見つけました。
1.TregのないマウスにNSAIDの一種であるインドメタシンを投与したところ、重篤な腸炎を発症した。
2.Tregのあるマウスにインドメタシンを投与したところ、腸炎は発症しなかった。
この研究報告からTregとPGはそれぞれ独立した抗炎症経路を持っていて、どちらかが阻害されてももう片方の抗炎症作用が機能すれば炎症が発症しないことがわかりました。
抗炎症作用があるPGは腸管上皮細胞から産生されますが、悪玉菌が優位になると善玉菌が減少して腸管のエネルギー供給は減少します。これと関連して善玉菌の一種である酪酸菌減少と腸の炎症を考えてみます。
1.酪酸菌減少によって腸管上皮細胞のエネルギー供給が減少すると大腸バリアの粘液分泌、抗炎症物質のPG産生が減少して腸の炎症が起こりやすくなる。
2.酪酸菌減少によってTreg産生が減少すると、抗炎症作用が機能しなくなり腸の炎症が起こりやすくなる。
酪酸菌はこれら3つの抗炎症作用に関わっていて、酪酸菌の減少によって腸の炎症が起こりやすい環境になり、長引けば炎症性腸疾患を発症する場合があるので注意が必要です
ミヤリサンの成分他詳細情報
強ミヤリサン 330錠2073円(参考価格)
成分
9錠中(成人1日服用量)、
・宮入菌末270mg:以下、働き
腸内において発育し、有機酸(酪酸、酢酸)とビタミンB群を産生します。
腸内有益菌(ビフィズス菌、乳酸菌)の発育を助長し、腐敗や異常発酵の原因になる有害細菌の発育を抑制して腸の働きを正常にします。
用法用量
下記の量を1日3回、食後に服用してください。
・15歳以上1回3錠
・11歳以上15歳未満1回2錠
・5歳以上11歳未満1回1錠
効能効果
・整腸(便通を整える)、軟便、便秘、腹部膨満感
その他ご不明な点は薬剤師や登録販売者にご相談ください。
ミヤリサンとミヤBMの成分含量の違い
多くの整腸剤には市販薬と同じ成分の医療用整腸剤がありますが、ミヤリサンは「ミヤBM」がそれに当たります。それぞれの1錠当たりの含量を比較してみます。
・ミヤリサン:1錠30mg
・ミヤBM:1錠20mg
これだけを見ると市販薬のほうが含量は多いですが、実際の効果は医療用のほうが高い、とミヤリサンの担当者は誠実に教えてくれます。
含量は市販薬のほうが多くても、「菌数」は医療用のほうが多い
整腸成分の含量については厚労省に申請する際に報告する義務がありますが、菌数については報告義務がないのでメーカーの自己判断のようです。
例えば、乳酸菌飲料のヤクルト400は乳酸菌シロタ株が400億個、ヤクルト1000は1000億個のように乳製品は菌数を表記しています。
菌数を表記することは宣伝効果にもなるのでそうした乳製品は多いですが、整腸剤は長年の慣例に従って表立っては菌数を公表していません。唯一ミヤリサンは問い合わせれば教えてくれるようです。
ミヤBMの添付文書は情報がいっぱい
宮入菌は酪酸菌の一つとして市販薬ではミヤリサンの、医療用ではミヤBMの整腸剤として厚労省に承認されています。
その情報を記載しているのが「添付文書」ですが、医療用では特に医師や薬剤師などの専門家の目に触れる機会が多いので、市販薬より多くの情報を記載しています。
情報の一部分ですが、わかりやすく解説したいと思います。
1.臨床試験の成績
・軟便:約160例中59%
・下痢:120例以上改善率97%
・便秘:約10例中改善率67%
・交替性便通異常:10例中80%
・過敏性腸症候群:120例以上80%
2.宮入菌の働き
・宮入菌はサルモネラ菌や大腸菌などの病原菌を抑制した。
・無菌マウスに宮入菌を投与すると大腸菌の増殖、毒素、致死率を有意に抑制した。
・下痢モデルマウスに宮入菌を投与すると、腸管水分貯留が有意に抑制した。
・宮入菌投与により便の水分率減少と性状、排便回数の改善が認められた。
・大腸炎モデルマウスに宮入菌を投与すると、腸管内で酪酸などの短鎖脂肪酸が増加した、など。
健康な身体、健康な精神は健康なお腹によって保たれています。乳製品や整腸剤、野菜や食物繊維が健康なお腹を維持します。お腹の調子が悪くなってからこれらを取り入れるのでなく、普段から意識して取り入れていれることでストレスは少なく、毎日の生活がより快適に近づきます。
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