『アマゾネスキス』1巻–vol.02 2月のマンガ・リハビリ・エクササイズ

『AUTO MAN』1巻
 柞刈湯葉/講談社・コミックdays

『生と死のキョウカイ』1巻
小倉孝俊/集英社・となりのヤングジャンプ

『メタモルフォーゼの縁側』1巻
鶴谷香央理/KADOKAWA・コミックNewtype

『アトムザ・ビギニング』2巻
コンセプトワークス:ゆうきまさみ、漫画:カサハラテツロー/小学舘クリエイティブ・ヒーローズコミックス

『アマゾネスキス』1巻
意志強ナツ子/リイド社・トーチweb

マンガリハビリエクササイズの2月は上の通り。当月に出た作品というわけではないんだけど、今月も新刊が多め。先月購入した『アトムザ・ビギニング』については続巻を購入。

今月は僕好みの作品とたくさん出会うことができた。まずは『アマゾネスキス』。今月のベスト。

売れない占い師であるはづきは、生計をたてるために大好きなボタニカチョコをつくるメーカーで働いている。嫌いな上司にきつく当たられても堪え忍んでこれたのは、ボタニカチョコの開発者である天野純子への憧れと天野の企画であるチョコの包み紙の占いのおかげだった。ところが、天野が新たな会社を立ち上げようとしていることでクビになり、はづきは目標を失い、天野への合流に奔走する。超感覚知覚力をもつ人を「キスなしで高次元へ飛ばす」ことで救う会社・アマゾネスキスに、はづきは傾倒していく。

「超感覚知覚力」だとか「高次元」だとかいう超能力のようなキーワードは序盤から小出しに登場する。読者から見ればその時点では何を意味するのかわからない。し、はづきがそれを理解して会話しているのかもわからない。しかしアマゾネスキスにはづきが入会した時に、読者はアマゾネスキスがいったいなんなのかすぐに察する。アマゾネスキスは、明らかに風俗店なのだ。読者からすれば『アマゾネスキス』は、風俗店に勧誘された人々の物語なのだけれど、作中でそう指摘する者はいない。売れない占い師や人気のない地下アイドルが、アマゾネスキスでのトレーニングを経て、自己実現していく物語として描かれていく。

主人公をはじめとする登場人物はみんな正常だ。誰かに憧れたり、夢を持っていたり、まともな判断能力を持っている。しかし、アマゾネスキスという会に関する認識だけが読者と食い違っている(ように見える)。

反対に一人だけ、アマゾネスキスへの認識が読者に近い登場人物がいる。それは、アマゾネスキスの一員であるアイドルに暴行し、主人公の占いを盾にとってアマゾネスキスに入会した不穏分子の男の子だ。登場人物のなかで唯一異常性を持ったこの男の子だけが「お金を払ったのに触らせてくれない」と、アマゾネスキスをそういうお店として認識している。

この漫画を読んでいて思い出したのが、宮崎夏次系の傑作「水平線JPG」という短編漫画だ。この作品では、文字通り、おしりみたいなかたちの顔をしていて、年齢より幼い振る舞いをする少女が病気で入院している。お兄さんたちが妹である彼女を見舞う物語だ。作中の人物は誰も少女の顔がおしりみたいであることを指摘しない。読者だけが、その異常性に気づいていて、お兄さんたちは妹が天使のような子だと可愛がって愛している。しかし、妹が退院すると決まったとき、お兄さんたちのモノローグによって彼女が自分たちにとって重荷であったことが語られ、二人は病院前のバス停で降りることができず遠くの街まで乗り続けてしまう。僕は少女の異常性に気づいているのが自分だけではないことにホッとした。と、同時に自分が恐ろしくなった。少女は自分が兄にとって重荷であったことを承知していて、病気が治っていないふりをして病院に残ろうとする。自分の持っていた差別意識を、他の人(登場人物)が同じように持っていたことにホッとしてしまったことに恐ろしくなった。

少し話がそれてしまったんだけど、『アマゾネスキス』では、読者の思考と登場人物の思考のズレが『水平線JPG』のようにどこかで一致するのか、あるいはしないのか。異常なことと正常なこととの境界をふらふらと行ったり来たりするこの作品から目を離すことができない。