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記事一覧

#143 成長を支援するということ|リチャード・ボヤツィス

今年度は専攻医との一対一の振り返りに関わっている。 (そういえば1 on 1というフレーズは界隈では聞かないな。) ポジティブな点をより多く振り返ってもらうこと、感情面を深堀ること、短時間でもこまめに実施すること、過去の振り返りもすぐに参照できるようにすることなど工夫している。 これまでの経験から継ぎ接ぎしたようなこれらの工夫が理論的な裏付けとして支持されており安心した。 学習者の成長、行動変容にかかわれることは喜ばしいこと。 より質の高い振り返りができるように振り返りの振り

#142 セルフケアの道具箱|伊藤 絵美

最近はポッドキャストの後で聞くリストが底をつきてしまい、もっぱら安斎さんのVoicyを聞いている。聞き取りやすくて関心領域にマッチしていて捗る。 そこで紹介されていた本のことを書こうとしたが、もうこのnoteに書いてあった。 記憶力はこんなものだ。 ということで今回はこちら。 2,3年前の読書ノートを読み返してみた。 日々のログがかなり雑になっていることに気がつく。 感情が揺さぶられたときやストレスを感じたときは丁寧な振り返りが必要。 それを繰り返さないと自分のネガティブ

#98 急に具合が悪くなる|宮野 真生子・磯野 真穂

仲間内で読書会をすることになり課題本に指定されたため再読した。 この二人にしか交わせれえなかった往復書簡。 命がけの言葉のキャッチボール。 本書が出版された偶然に感謝したい。 自分が考えた論点を箇条書きしてみる。 確率にからめとられる生 弱い運命論と代替医療 意思決定と中動態 医療化と患者になることへの抵抗 3セクターの分断と対立 合理性と偶然性 不運の意味づけ 他者と生きることー約束・信頼・出会いー 当日(今日)が楽しみだ。

#82 目的への抵抗|國分 功一郎

わりと最近でた本です。 『暇と退屈の倫理学』の続編というふれこみで手に取りました。 東京大学での2回の「講話」が元になっています。 質疑応答の質問が鋭くてさすが東大生やなとなりました。 哲学と対話って相性いいんでしょうね。 第一部 哲学の役割〜コロナ危機と民主主義 コロナ禍での行動制限を大衆が受け入れたことへの警鐘をならしたアガンベンの発言をもとにコロナ危機と民主主義について論じています。 コロナ禍では、強大な行政権は司法権に従属するという原則が崩れてしまった。 グロー

#76 いくつになっても、「ずっとやりたかったこと」をやりなさい。|ジュリア・キャメロン

本書は『ずっとやりたかったことを、やりなさい。』の続編(大人編)です。 想定読者はリタイア世代ですが、幅広い世代に有用な一冊です。 創造的な生き方を模索するための4つのメソッドが紹介されています。 モーニング・ページ|毎朝一番に思いついたことをノートに書き連ねる アーティスト・デート|楽しいことを探しに一人で出かける ソロ・ウォーキング|一人で何も持たずに20分歩く メモワール|過去の記憶を思い出して過去の人生を再訪する モーニング・ページは三日坊主で無事終了しまし

#55 偽者論|尾久 守侑

前々回、前回の流れで今回は尾久先生。 精神科医でありながら詩人でもあり、若くして医書も詩集も出されています。 これまたとんでもない。 「表面上はうまくやっているけど、『自分は本物ではなく、偽物である』という虚無感を拭うことのできない、現代のパーソナリティを持つ人々のこと」を偽物クラスタと名付けて、その特徴について論じられています。 あー私まさにこれではという読後感でした。 これまでにない物語調の医書で新鮮な読書体験となりました。 なにせ文章が面白い。 他の著作も読まねばな

#50 成人発達理論による能力の成長|加藤 洋平

成人発達理論はヴィゴツキーの最近接発達領域と同義だと思っていましたが、フィッシャーの発達範囲という概念を知って驚嘆しました(下記筆者ブログを参照)。 プロフェッショナルとは、継続的に知識基盤を確立する作業をしつつ、そこで得られた知識を自分なりに咀嚼して実践のなかで活用し、そこでの体験に自分なりの言葉をあてている人。成長が実感しにくくなっている(実際に止まっている?)今日このごろですが、他者の支援と言語化を意識して実践を重ねたいと思いました。 そこらへんのビジネス書よりささる、

#42 むかしむかし あるところに ウェルビーイングがありました|石川 善樹・吉田 尚記

前回の本の共著者の一人、予防医学研究者の石川善樹さんの著書です。 日本人のウェルビーイングを、日本昔話などの文化から考察している点が面白く、一気に読めました。 ウェルビーイング経営という言葉も聞こえるようになりましたが、医療現場でもスタッフのウェルビーイングが大切にされる風土をつくっていきたいものです。 ちなみに日本の世界幸福度ランキング54位です。はい。

#41 感情は、すぐに脳をジャックする |佐渡島 庸平・石川 善樹

前回は初めて漫画を取り上げました。 今回は漫画つながりで、編集者の佐渡島庸平さんの著書です。 感情との付き合い方について、対談も交えながら考察されています。 感情をうまくコントロールするよりも、表層的な感情の先にある本質を理解し正しく認知するほうが有用であるといいます。 そのためには感情の種類を知り、その感情が生じる理由を問う必要があります。 つまり振り返りが重要なわけです。 振り返りの常套手段は書き出すことだと思いますが、佐渡島さんは自身が話たことで後で聞いて振り返る

#38 現代思想入門|千葉 雅也

ブックカタリストで紹介されていたので手に取りました。 「哲学弱者」のため、特に後半は難しくてよくわかりませんでしたが、序盤のデリダ・ドゥルーズ・フーコーの章は、おもしろく読めました。 中でも気に入ったのがドゥルーズの章。 一見バラバラに見えるものが背後ではつながっているという世界観〈リゾーム〉から、ものの存在を対立関係から解放し、普遍的な持続可能性として捉えると「存在の脱構築」という概念が紹介されています。 同一的とされるものは永遠不変に固定されたものではなく、諸関係

#37 暇と退屈の倫理学|國分 功一郎

あちこちで紹介・引用されていたので読みました。 著者の國分功一郎さんは『「利他」とはなにか』の著者の一人でもあります。 序盤の「うさぎ狩り」の話が印象的でした。 うさぎ狩りに行く人が欲しているのは、うさぎではなくて、退屈を紛らわすための気晴らしです。 暇〈客観的な状態〉と退屈〈主観的な状態〉な時間をどう過ごすか、様々な角度から論じられています。 すべては理解できませんでしたが、「環世界」の概念を初めて知ったり、消費と浪費の違いについて考えたりと、頭を使う刺激的な本でした。

#36 思いがけず利他|中島 岳志

前回紹介した本の著者の一人、中島岳志さんの著書です。 利他は与えたときでなく、受け取られたときに発生するもの。 発信者にとっての利他は未来から、受信者にとっての利他は過去からやってくる。 この時制の不一致が「思いがけなさ」につながっているのだと理解しました。 「利他」を「贈与」に置換すると、『世界は贈与でできている』につながります。 最終章「偶然と運命」では、私が私であることの偶然性を思うと他者への寛容さが生まれる、という箇所が印象的でした。 無数の偶然の出来事から形づく

#35 「利他」とは何か|伊藤 亜紗・中島 岳志・若松 英輔・國分 功一郎・磯崎 憲一郎

東工大学「未来の人類研究センター」のメンバーによる、「利他」をテーマにした論考集です。 第1章は、伊藤亜紗さんによる『「うつわ」的利他―ケアの現場から』。 利他の大原則は、「自分の行為の結果はコントロールできない」ということ。 相手が想定外の行動をとる可能性を考慮していない「安心」と、その可能性を受け入れる「信頼」の違いが明示されます。 不確実性を意識しない利他は押し付けであり、支配関係が生じます。 翻ってケアの現場では、「信頼」よりもケアギバーの「安心」に重きが置かれ

#27 学びとは何か|今井 むつみ

ゆる言語学ラジオの最近のお気に入りシリーズ「赤ちゃんの言語習得」。 ここで紹介されていた今井むつみ先生の別の本を探しているうちに、気づいたら手にとっていたのが本書です。 キーワードはスキーマ〈たいがいはこれでうまくいくという経験則〉。 学びとはスキーマの構築と破壊を繰り返しであり、それは胎児のときから既に始まっている。 本書の学びを一行というとこれです。赤ちゃん恐るべし。 ちなみに今井むつみ先生の近著『英語独習法』では、自分の英語力がなぜ実用的でないのか大変腑に落ちて絶