詩吟の起源や発展の歴史について仮説を立てて想像してみる(その1)
詩吟はいつ生まれて、どのように発展していったのか?
これについては、過去に多くの先生方が調べて、まとめてくれている。
そもそも雑な性格の私なんぞがそれらに敵うはずもないので、今回は私なりの仮説を元に詩吟について深堀してみたいと思う。
1.詩吟の起源について
詩吟はそもそも2つの要素に構成される。
漢詩と朗詠である。
漢詩が伝わり、それを声に出して歌うという2段階ができて初めて詩吟の起源となる。
2.漢詩文化の起源について
漢詩文化の伝わりについては、西暦630年から始まった遣唐使によって、唐から伝わったという説が自分としても一番納得しやすい。
なぜなら、唐の時代には四大詩人といわれる
・李白(701~762年)
・杜甫(712~770年)
・白居易(772~846年)
・王維(600~759年)
等がおり、非常に優れた漢詩が沢山生まれた時代だからである。
李白の漢詩を吟じていて改めて思うが、美しい漢詩というのは、吟ずるまでもなく、読み下し文で声に出すだけでも深い美しさを感じられる。
「漢文で学ぶのが教養」と言われていた平安時代の貴族たちが、これらの漢詩から何も感じないハズがない。
そこから漢詩文化が貴族に伝わり、上から下へと徐々に広まっていったと想像できる。
3.吟ずるスタイルの起源について
漢詩を吟ずる文化の始まりは、江戸時代後期(文化・文政時代 1804~1830年)と言われている。
まぁ、広義で考えれば「すばらしい漢詩をただ読むのではなく歌いたい」という人は必ずいたであろうから、漢詩文化が広まった頃(平安時代)から始まっていてもおかしくはないが、今回は江戸後期説を元に話したい。
江戸後期に始まったという根拠は、私塾や藩校で漢学の勉強や精神修養の目的として、「漢詩に素朴な節を付けて声に出す」というやり方が広まったからである。
とりわけ、広瀬淡窓が私塾(桂林荘)にて塾生に歌わせたことは有名であり、そこから卒業した優秀な生徒が各藩に持ち帰って広まっていったと言われている。
4.詩吟の流行その1
幕末には詩吟がさらなる盛り上がりを見せる。
「外国何するものぞ!」の気概にあふれた幕末の志士によって、悲憤慷慨の漢詩が多く作られ、吟じられたからである。
ここから想像だが、なぜ漢詩が盛り上がったのか、もう少し深堀してみる。
自分の感情の爆発を世に残したかったから。
漢詩にすることで、感情を人に伝えることができるから。
教養の高い人に伝わりやすいから。
1.自分の感情の爆発を世に残したかったから。
感情を形に残すことは難しい。
時間が経つほどに失われていったりする。
この時代の志士は「死ぬこともいとわない」人が多い傾向にあるが、「世に生まついたのだから、名を残したい」という考えや死生観があるのであれば、何かしらの形で感情を、考えや生き様を残したいと思うのが自然である。
その対象が「漢詩」だったのだと思う。
漢詩は少ない文量で多くの情報(主に感情)を残すことができるため、残しやすい。(大量の文章だと持ち運ぶのも大変で、紙だと燃えたり劣化してしまう。短い漢詩ならば、頭の中だけでも容易に持ち運べるのでないかと思う)
②漢詩にすることで、感情を人に伝えることができるから。
漢詩という形にすることで、自分の考えや感情を、人に伝えることができる。
何もなければ、直接会って、もしくは手紙を書いて伝えることしかできないが、漢詩にすることで、より多くの人に伝わりやすくなる。
SNSほどではないが、人に伝わりやすい「媒体」として漢詩が使われたのではないかというのが私の考えである。
③教養の高い人に伝わりやすいから
漢詩を一度作ってみると分かるが、作るのは本当に難しい。
そもそも、難しい漢字を沢山知らないといけないし、色んな作法も学ぶ必要がある。それだけでなく、過去の多くの漢詩を知って、それをそれとなく引用して奥行を示すこともある。
このように、漢詩を作るには教養が必要である。
教養がある人は人間組織において上位にいる確率が高い。つまりは、教養がある人が伝え、伝われば、そこから下位へと伝わりやすくなる。それこそ広瀬淡窓の塾生が各藩に持ち帰っていったように。
今風の(しかもめちゃくちゃ浅い)言い回しにすれば、ちょっとしたインフルエンサー的な人を狙い撃ちできていた、というのが漢詩の特徴なのではないかと思う。
漢詩にすることで、(それが本当に良い詩であるならば)他の教養のある人に伝わり、もっともっと広がっていく。それが上手くいくと、後世にずーっと残っていく。吉田松陰や高杉晋作の漢詩はその代表例である。
まとめると、漢詩は「感情や考えを形として残し、人に伝える媒体」として当時では優秀だったのではないかということである。
とりあえず今回はここまで。次は明治、大正、そして重要となる昭和の時代について考えを書いてみます。
【参考サイト】
・ナチュラル詩吟教室 - 詩吟の歴史-
https://natural-shigin.com/about/history
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