ジズス(4)
ヴィゴが先に学校へ行き出してから、私にひとりだけ親しい友人ができた。
道向かいのパン屋の娘で、名をヘレナといった。
短い髪の、ひとつ年下のヘレナ。忙しい両親にかまってもらえない日の彼女は、私たちの部屋の窓をたたく。
その小さな手は、いつも水色の毛糸で編んだミトンで覆われていた。店のオーブンで負った、ひどい火傷の痕があったのだ。
体を隠さなくてはならないという点において、私たちは出会ったときから同志であった。
ふたりは時間を埋め合った。同じ絵本を何度も読み合い、道端の石を蹴り、頭の上を飛ぶ虫の群れをずっと眺めたりした。
お互いの秘密を見せ合った日のことをよく覚えている。
雪が降っていた。誰もいない倉庫。積み上げられた小麦粉の袋の影で、ヘレナは私の曲がった腕をさすった。
焼けただれ、癒着してしまって開けない指。
私の胸は高鳴った。彼女もまた天使の羽を持っていたのだ。
若者と呼ばれる年頃になると、私は不器用にも、ヘレナを避けるようになった。
母親が胸を患ったことをきっかけに、水色のミトンは象牙色の手袋になり、彼女は店を手伝い始めた。
学校の行き帰りに店の中をのぞいた。長いブロンドの髪を結び、お客と笑顔で対しているヘレナが、自分よりずっと大人に見えた。
ヘレナ。その失われた名前。私の生涯の愛。
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