ジズス(7)
生い茂る若葉は、差し込む日の光を透かして輝いていた。
その枝と枝の間に張られた小さなクモの巣に、丸い水滴が転がっている。
美しい夏の午後。
幼い私たちは、自分の身の丈ほどの生い茂った草木をかき分けて歩いている。
私は彼女の手をとって歩く。息が荒い。
赤いリボンを結んだ麦わら帽子と、白い麻のワンピース。
ハンカチで汗を拭いてやり、大丈夫かいと問う。
彼女は声も無く、ただ頷く。
短い夏を楽しむために、ヘレナと計画していた森へのピクニック。
反対していた大人を説得してくれたのは、引率をかってでた兄だった。
今なら親たちの心配がわかった。この遠い道のり、ふたりだけだったらどうなっていただろう。
先に進んでいた兄が立ち止まっていて、手招きをするのが見えた。
やっとのことで追いつき、ふたりで兄の腕の下をくぐる。
そこに湖があった。空の色を映し、見事なまでに青い水面が、風を受けてきらめいていた。
驚きの声をあげた、ヘレナの表情もまた。
ヘレナの父親が持たせてくれた干葡萄パン。兄がナイフで切り分けたハム。
瓶詰めのピクルスと、みんなで摘んだクロスグリの実。
湖畔でとった昼食はそれまでの人生で、いや、私の人生において最高の食事だった。
釣り針を用意している兄の傍らで、お腹いっぱいの私たちは横になる。
木陰に吹く風が心地いい。
ヘレナの寝息。
魚がはねる音。
このままここで暮らしたいな、と、まぶたを閉じながら私は思う。
彼女はステージの上にいた。
派手な化粧を施され、髪を巻いている。
丈の短い天鵞絨のローブ。
素足に、かかとの高い靴。
照明があたる。
そばにいた男がローブをはぎ取る。
青ざめた肌が、大勢の男たちに晒される。
髪を掴まれ、彼女は顔をあげさせられる。
下卑た口笛が飛ぶ。
腕をとられ、その場で後ろをむかされる。
待ち望む視線。
開かれる脚。
耐えられない。とても耐えられなかった。
大柄な男たちに取り押さえられ、這いつくばった床に歯を立てながら、
私は落札を告げるハンマーの音を聴いた。
(未完)
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