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正調『膝枕』古典風味編

はじめに



すでに外伝の数は200を超えている『膝枕』。ストリーとしての幅の広がりには日々驚くばかりですが、ストリーは変えずに原典を変えるのも面白いものです。

河田利恵さんが、「ですます調」を出されていましたが、これが面白い。では、すこしやりすぎなくらいやってみたらどうなるか?試してみました。

初めに、地文に敬語を徹底的に入れ、一部の台詞に古典っぽさを加えて編集して読んでみました(9/9のリプレイ)。しかし、どこか中途半端感を感じましたので、台詞すべてを古典に置き換えました。すると、今度は、カタカナ語が引っかかります。なので、カタカナ語を和語に変換する作業を行いました。この時点での原稿を読んでいただいたのがこもにゃんです。これが一応膝開きと言うことでした。ただ、今度は、段ボールを置き換えた紙箱他、日本語の単語でも古典風味に合わない部分がきになりました。そのため、可能な範囲でそれらも古典風に書き下ろすような修正を加えてあります。それを読んでいただき、おもにゃん、こもにゃんのコメントも踏まえて、さらに修正をかけたのがヒロさんと私が読んだバージョンです。台詞は平安調ではありますが、そもそも平安時代にデパートのようなものの売り方はなく、当然、レディースフロアもありません。押し入れさえありません。そのような状況ですので、時代考証や古語の使い方等々むちゃくでゃですがお許しいただき、なんちゃって古文として楽しんでいただければと思います。でも、少しでもオーセンティックな日本語・古語になり、また、時代的一貫性ができるなら修正をしてまいりますので、ご指摘ください。少しずつ直していきます。ご自由にお読みいただければと思いますが、事前にご一報いただければと思います。

今井雅子作 「膝枕」の古典風味編(関成孝) 


あれは、ある休日の朝のことでございました。独り身で恋人もおりませず、打ち込める趣味もございませず、その日の予定も特にございませんでした男(おのこ)は、呼鈴(よびりん)の音で目を覚まされたでございました。

扉を開けますと、荷運びの者(もの)が大きな行李(こうり)を抱えて立ち候(さぶ)らわれておりました。丸火鉢(まるひばち)でも収められていそうな大きさでございましたが、受け取りの印(しるし)を求められた送り状には「枕」と記(しる)されていたのでございました。

男)「ま、枕かな!!」

男の声が喜びに打ち震えたのでございました。

荷運びの方)「受け取り、よしや?」

荷運びの者に急(せ)かされまして、男(おのこ)は「取扱注意」の張紙(はりがみ)が貼(は)られておりました行李(こうり)を 両(りょう)の腕(うで)でお受け止められなられますと、お姫様だっこのお姿でお屋敷(やしき)の内へとお運び込にになられました。

おはやりになるお気持ちをお抑(おさ)へになられ、御爪(おんつめ)をお使いになられて 包み紙に貼られました粘着帯(ねんちゃくたい)をお剥(は)がしになられます。小刀(こがたな)で傷(きず)をつけてしまわれるようなことはめっそうもございません。行李(こうり)を開けますれば、おなごの腰から下が正座の姿勢で納められていたのでございました。届きましたのは「膝枕」でございました。かなり短めの女袴(おんなばかま)から膝頭が二つ、お顔を顕(あら)わにのぞかせているのでございました。

男)「草子(そうし)に見たりし影(かげ)より色白なるかな」

男(おのこ)がお声をおかけになられますと、膝枕は正座された両のおみ足をかすかに内側にお振(ふ)りになり、お恥じらいになられました。見目(みめ)も 手触(てふ)る心地も いみじう うつそみの膝のままにつくられてございました。くわへますことには、うつろふ み気色(けしき)も 上手(じょうず)に顕(あら)わに記(しる)せる段取りが組み込まれていたのでございました。さはありますが、膝枕にくわへる役割りは 果たさないのでございました。つまるところ、お膝としての御用に立つことを お貫(つらぬ)きなさることが お役目とお心得(こころえ)なのでございました。

さまざまな期待に叶(かな)うことができますよう、品ぞろへは まことに豊かでございます。身体(からだ)に分(わ)くる脂(あぶら)あること十(とお)に四(よ)つ、やみつきの沈み込み手難(てが)たきもの、「ぽっちゃり膝枕」。たらちねの母に耳かきされた古(いにし)へを思(おも)ひて恋(こひ)しき、「おふくろさん膝枕」。「細枝(ほそえだ)の  た弱(よわ)き脚(あし)もて  手もすまに  支(さそ)ひ支(さそ)うぞ 君を思へば(注)」がはやりの言(こと)の葉(は)なるは、「守ってあげたい膝枕」。「頬(ほほ)撫でる タケシタワシか 癒される」おなごに人気、「親父のアグラ膝枕」

(注)できれば短歌として詠んでください。

草子(そうし)を残すところなくお目通(とお)しなされ、思ひに思ひを巡らされ、そら思ひにそら思ひを繰り広げられたのちに 男(おのこ)がついぞ選びましたその膝は 誰(たれ)もいまだに触れたことのない、新たに積りし雪のごとくきよらかな膝がご自慢の、「御(おん)箱入り乙女膝」でございました。

「御箱入り乙女膝」の命名(めいめい)はまことのものでございました。恥じらう様(さま)ひとつひとつが こよなく奥ゆかしく  気品に溢(あふ)れていたのでございました。正座したおみ足をもじもじと動かすのがまことに初々(ういうい)し様子でございました。男(おのこ)一人にて住まふ処に はじめて逢(あ)ひに参られた 乙女のうれし恥ずかしが なまめかしく伝わってまいります。

男)「よく来たりかし。おのれの家と思ひてくつろぎたまへ」

強張(こわば)っていた乙女膝から心なしか力が抜けたように見えました。この膝に早く身を委ねたいとはやる思ひを、男(おのこ)は、ぐっと押しとどめたのでございます。あながちな男だとは思われたくございません。気まずくなりましては先が案ぜられるものでございます。なにせ 御簾(みす)の奥に侍(はべ)られておられた おぼこ娘(むすめ)なのでございます。

男)「お召(め)しになられる衣(きぬ)、おなごの着るもの よくわからで.……」

男(おのこ)が 乱れること隠せずに仰(おっしゃ)ると、乙女膝が わずかに弾んだようでございました。

男)「もろともに 買いにいかむ」

さきほどよりも大きく、膝頭が弾んだのでございました。どうやらお喜びになっていらっしゃるようでございます。


男(おのこ)と乙女膝にとっての新枕(にいまくら)となりました、その夜(ゆうべ)。男(おのこ)は乙女膝に手を出されず、いや、頭を出すことはいたさずに、そこに侍(はべ)る乙女膝の気配をお感じになりましてお眠り遊ばされました。やわらかな羽二重(はぶたえ)に埋(うず)もれる夢を御覧になられたのでござります。

翌日(あくるひ)、男(おのこ)は柳行李(やなぎこうり)に乙女膝を納めますと、よろず商いの店の女御御用達(にょうごごようたし)の品(しな)扱処(あつかいどころ)へと向かわれました。

男)「ところ狭く御免なされ。いましばしの辛抱でござりますれば」

閉じ金具が閉まりきらないほどに柳行李(やなぎこうり)を抱きかかえられて、行李(こうり)に向かわれて語りかけられておられた男(おのこ)のお顔は いたくニヤけておられたことはご想像の通りでございます。まことに怪しすぎまして、店の方々は近寄ろうとはなされなかったのでございました。

男)「なほ 白妙(しろたえ)の衣(きぬ)の思(おも)ひやりでござらんか。かふいうは お似合と思(おぼ)しまする。此方(こなた)の衣(きぬ)など お気に召さんむや?」

男(おのこ)がお手に取られました短めの女袴(おんなばかま)を柳行李(やなぎごうり)にお近づけになりますと、行李(こうり)の中で乙女膝の膝頭が弾みました。裾(すそ)に透かし模様が付けられました白妙の女袴を買い求められました男は、お屋敷にお戻りになられますと、ただちに、乙女膝にはかせて御覧になられました。

男)「いとよし。いとつきづきし。いと美(うつく)し……もはやねんずべからず!」

男(おのこ)は乙女膝に倒れ込まれました。羽二重(はぶたえ)のようにふんわりと男の頭が受け止められたのでございました。女袴の薄衣(うすぎぬ)を通して伝わってまいります ふくさなるここち。透かし模様の裾より顕(あら)わな 膝のおもてのなまめかしさ。喜びかぎりなきこと 例(たと)へようがござりませぬ。

この膝がございますれば、ほかに何を求める必要がございましょうか。男(おのこ)は 乙女膝に 憂(う)き身をやつされる思(おも)ひでございました。いとなみの場に参(まい)りましても、乙女膝への思ひ 絶へることがございませんのでしたので、為さねばならぬこと、なかなかはかどらずに日が暮れてまいります。

男)「ただいま、帰宅(きたく)せり」

男(おのこ)が急いで戻り、表(おもて)の扉を開けますれば、乙女膝が正座の様(すがた)にて侍(はべ)ってございました。膝を捩(もじ)らせて、男(おのこ)を出迎へに運(はこ)ばれたのでございました。心打つほどに、愛(あい)らしい。愛(いと)おしさがこみ上げ、男(おのこ)は乙女膝に ただちに身をゆだねたのでございました。

乙女膝を枕としつつ、男(おのこ)はその日にありしことを語ります。しばしば乙女膝がほのかに震えたのでございます。お笑になられているでございました。


男)「まろの語(かた)ること、をかしゅうござるか?」

拍手をなされるかのように、二つの膝頭がパチパチと合わさりました。なおも乙女膝を喜ばせんと、男(おのこ)の語りに熱がこもって参ります。その日のいとなみに うたてしことなど ございましても、乙女膝への語らい草(ぐさ)得(え)たりけれと思へば、お心地(ここち)、いと安らかになるのを覚(おぼ)へるのでございました。日々、よろしき覚えなかりし男でありましたものが 大いに胸を張るようになられたのでございます。顔つきは覚えよく、語(かた)るも笑み溢れて、目には力が宿るようになったのでございます。

ひさこの宮)「かく をかしき人なりかな」

仕事の同胞(はらから)が集(つど)いせりし宴(うたげ)にてご隣席なされたヒサコの宮(みや)が うっとりした眼差(まなざ)しを送ってこられたのでございました。

男)「さようなほどには至りませぬ」

と仰いながらも、男(おのこ)の目はヒサコの宮の膝に囚(とら)われて離れないのでございました。酔(え)ひて頭(かしら)を傾かせヒサコの宮のお膝に倒れこまれ、枕される様(さま)とおなりになられたのでございます。

その刹那(せつな)に、男(おのこ)は 作り物では覚(おぼ)えることがかなわぬ うつそみのやわらかさと温かみに 魅了されたのでございます。

我を忘れ骨抜きにされました男(おのこ)の頭の上より降り聞こえりしものは、ヒサコの宮のお声でございました。

ひさこ)「君(きみ) 恋しくなりにけめり」

その夜も、乙女膝は、いつものごとく 表(おもて)の扉の内(うち)にて男を待ち侍(はべ)っておりました。ヒサコの宮の膝も いとすぐれたるものなるものの、乙女膝も他(ほか)には代えがたく 魅力に溢れたものがございます。

男)「なほ 君が膝に 適(かな)ふものなし」

思はずお漏らしになれらた一言(ひとこと)に、乙女膝は気色(けしき)ばみ 身を硬くされたのでございます。徒心(あだごころ)をお察しなされたご様子。その処(ところ)に「これより 参り侍りたく」とヒサコの宮からの文(ふみ)がございました。男(おのこ)は 惑(まど)ひて刹那(せつな)に 乙女膝を大きな行李(こうり)にお仕舞になると、押入れの奥の方へと押し込まれてから ヒサコの宮を屋敷にお招き入れなさいました。

その夜(ゆうべ)、男(おのこ)はヒサコの宮に膝枕をお求めになられましたが、それより先にお進みになることはなされませんでした。ヒサコの宮は男(おのこ)に大事にされているのであろうといたくお感じになられましたが、男(おのこ)は 膝枕にしか興(きょう)がお乗り遊ばされないのでございました。

次なる日からヒサコの宮は男君(おとこぎみ)の住まうところにお通いなされましたが、例(いつも)のようにあいかわらず膝枕止まりで終わり、その先へ進むことはございませんでした。ヒサコの宮は心もとなくおなりに遊ばされましたが、女御(にょうご)のほうから「そろそろ枕を交(かわ)わさずや」と申し上げるのは はばかられるものでございます。

くわへて、ヒサコの宮には気がかりにお思ひになることあったのでございました。男(おのこ)の間(ま)に侍(はべ)りしときに、誰(たれ)かの眼差(まなざし)しの気配(けはい)を覚えるのでございました。それは、誰かが息をひそめまして、こなたを見つめて奥に つと控えている様(さま)をお感じになられるのでございました。

ひさこ)「誰(たれ)かある?」

男)「さるよしはあらず」

すと、このたびは、押入れの奥の方よりカタカタなる音 聞こえてまいります。

ひさこ)「あれ、何(いずれ)の音(ね)なりや?」


男)「思(おも)ひなしなり。われ、いとなみすべきことあれば すまねど」


ひさこ)「よきぞ。おいとなみなさりませ。われ、先に寝たり」


男)「違(ちご)ふなり。君(きみ)ありと、気のうつろいぬるなり。」

男(おのこ)は急(せ)いてヒサコをの宮を追い返されますと、大きな行李(こうり)から乙女膝を取り出されたのでございます。行李(こうり)の中(うち)でお暴れ続けてございましたゆへ、乙女膝は 打ち身と擦り傷まみれになられていたのでございました。その膝をお擦(こす)りあはわせて、縮こまりて勢い失われて侍(はべ)られました。

男)「嫉妬せりや?」

男(おのこ)は乙女膝を抱き寄せられると、傷まみれの膝をやはらに指でお撫でになられたのでございました。

男)「まろ 悪(あ)しかりき。いま誰(たれ)も屋敷には上げず。まろには、君ばかりぞ」

男(おのこ)が誓ふと、「願い たてまつる」と手を合はせるやうに、乙女膝は左右の膝頭をぎゅっと合わせたのでございます。それより膝こすり合はせ、「来たまへ・・」と言ふべく男(おのこ)を誘ったのでございました。

男)「よしや? かく傷(きず)まみれなれど」

「よしや」と言ふように左右の膝をかわるがわる動かされ、乙女膝が男(おのこ)を促(うなが)されたのでございまいした。打ち身と擦り傷を避けられ、男は乙女膝に、やはら頭(かしら)を預けたのでございました。

男)「なほ、君の膝こそ たれのものよりよし」

ひさこの宮)「無下(むげ)なり!」

男(おのこ)が飛び起きなされると、いつの間にかヒサコの宮がお戻り遊ばされていたではございませぬか。屋敷の表(おもて)に仁王のごとく立ちはだかり、麗(うるわ)しい唇を お怒りで 震わせてらっしゃるのでございました。

ひさこ)「汝(なんじ) 二股なりき……」

男)「違(ちご)ふなり! 本気なるは君ばかりなり! こや つくりものならぬ!」

男(おのこ)思はわずのたまへば、「いみじ」と言ふばかりに乙女膝がわなわなと ななけど、男(おのこ)は遠くへと離れていかれたヒサコの宮の後ろを見るばかりで、お気づきにはなられないのでございました。

男(おのこ)は、ヒサコの宮のみ寵愛することを誓うと お決めになられたのでございました。

男)「申し訳なし これより先なるところ もろともにいられぬなり。されど、君もまろが果報(かほう)を願(ねが)ふぞな?」

まこと身勝手なる言い草であるとは思(おぼ)しつつも、男(おのこ)は乙女膝を大きな行李(こうり)に収め、捨てに行ったでございました。行李(こうり)のうちよりは何の音(ね)も聞こえては参りませんでした。そのしじまが男にはいと痛々しく覚(おぼ)されるのでございました。おのれが せむかたなき悪人に覚(おぼ)えたのでございました。芥(あくた)場に行李(こうり)を置き捨てますれば、振り返られることもなさらず、走りて帰られたのでございました。

夜半に、雨が降ってまいりました。「乙女膝は 今頃濡れそぼつらむ。迎えに行かずは」という心地と、「いくべからず」と押しとどむる心地が せめぎ合うのでございました。男(おのこ)はヒサコの宮のうつそみの膝枕のやわらかさを思い浮かべられ、おのれに言い聞かせたのでございました。

男)「乙女膝のことは忘れむ。忘るべきなり。さだめて、ヒサコの宮の膝 忘れさす」

眠れない夜が明けたのでございました。男(おのこ)がいとなみへ向かわんと表の扉を開けますれば、そこには見覚えのある大きな行李(こうり)があるではございませんか。ところ狭き行李(こうり)の中で膝をにじらせ、帰り着いたものと思(おぼ)されます。行李には血がにじんでございます。

男)「とく手当てせずと!」

男(おのこ)が行李(こうり)からお抱き上げになりますと、乙女膝から滴(したた)り落ちた血が男(おのこ)の着物の裾を赤く染めたのでございます。

男)「大事(だいじ)ならずや? いたからずや? すまず・・」

乙女膝に血を止めるお薬をお塗りになり、細幅の晒(さらし)を巻きながら、男(おのこ)は申し訳なさとともに愛(いと)おしさが募ったのでございました。かくも傷だらけになってまでわれが元に戻って来てくれた乙女膝を裏切れる理由(わけ)がございません。

そのときふと、男(おのこ)の頭に別な案(あん)が浮かんだのでございました。

男)「これもきまりごとの段取りならずや」

乙女膝の行動様式は、組み立てられた場から出荷されましたところにて、取り付けられてございます。二股をかけられましたとき、捨てられましたときのいじらしい様子も、あらかじめ組み込まれているものでございますなら、人に作られた知恵に振り回されて踊らされているだけではございませんでしょうか。さように思(おぼ)せば、男(おのこ)はたちまち心が醒(さ)め、乙女膝がただのモノと映るのでございました。

男)「明日(あす)にならば、再び戻り来られぬ遠くへ 捨てに行かむ」

これで最後と男(おのこ)は乙女膝に頭を預けたのでございました。別れを覚(おぼ)されてか、乙女膝は身を強張(こわば)らせていたのでございました。乙女膝に頭を預けながら、男(おのこ)はヒサコの宮の膝枕を思(おぼ)されたのでございました。

男)「所詮(しょせん)、作りもの うつそみに勝(まさ)ること ありがたき。」

膝枕)「無用(むよう)なり。われら 別れられぬ 宿世(すくせ)なり」

夢かうつつか、乙女膝の声が聞こえた覚(おぼ)へがしたのでございました。

翌朝、目を醒ました男(おのこ)は、異変に気づいたのでございました。

男)「いかがせるなり? 頭(かしら)持ち上がず」

頭(あたま)がとてつもなく重くなっていたのでございます。横になったまま起き上がることができませんでした。それもそのはず、男の頬は 乙女膝に沈み込んだまま 一(ひと)つとなっていたのでございました。皮膚が溶けてくっついているご様子で、どのようになさろうとも離れることができないのでございました。

男)「これはひとへに、こぶとりおきなならずや」

男(おのこ)は書き物に記された作り手の案内(あない)先にかけてみたでございますが、呼び出す音が空しく鳴るばかりでございました。

男)「なんなりこは? 御品(おしな)お買ひ上げのまろうどへの注意の記(しる)しもの……?」

書きものの隅に肉眼で読めないほどの細かい字で注意書きが添えられていることに男(おのこ)は気づいて、それをお読み上げになられたのでございました。

「この品は乙女膝なれば、返品・交換は 強(こわ)く いなびてまつる。責(せ)めを持ちて 一生やむごとなく 取り扱ひたまへ。誤りし使ひ方をされしついでは、瑕(きず)の生じるがあり。」

いよいよ起き上がれなくなりました男(おのこ)の頭は、ますます乙女膝に沈み込んでまいりました。かつて味わったことのない心地が男(おのこ)を包み込んでいったのでございました。

(了)


解説


行李

段ボール箱をはじめは紙箱としましたが、どうしても違和感がでます。なので、行李(こうり)を使いました。そうするとガムテープがどこにどのように貼られているのかと突っ込まれますね。行李なら帯や紐で縛ってあるものではあるでしょうが、全体にテープ(粘着帯)が張られていたということにしてあります。

丸火鉢

オーブンレンジをどう言い換えようかと考えましたが、大きさからして、また、そこで餅を焼いたりすることができることも考慮して丸火鉢としました。

小刀

カッターの代替語です。剃刀も考えましたがちょっと無理がありそうなので小刀に。

女袴

スカートは和語でいうならこれでしょう。実際にスカートのような作りのものもあればキュロット型もありますね。

草子

カタログの代替語です。草子には絵が描かれていてもおかしくはないですよね。

段取り

ここでは「プログラム」の和語として使っています。

身体に分くる脂あること十(とお)に四つ

体脂肪40%のことです。

手もすまに

「一生懸命に」の古語です。

タケシかタワシ

タケシが何号までいるのかは定かではありませんが、今井先生によれば、少なくとも、タワシ、竹子までの3号までは確認されています。

あながちな

「身勝手な」の古語です。

なほ

やはりの古語

思ひやり

ここでは「想像する」の意の古語

透かし模様

レースをこのようにしましたが良い案があれば是非教えてください。

いとよし、いとつきづきし、いと美し

「とてもよい、とても似合っている、とても可愛い」の意の古語

ねんずべからず

「我慢できない」の意の古語

ふくさなる

「ふっくらした」の意の古語

なまめかしさ

「みずみずしい」の意の古語

いとなみ

仕事の意の古語

うたてしこと

「きにくわない、なさけないこと」の意の古語

うつそみの

「現世の、真実の」の意の古語

気色ばみ

「(思いが)外に表れて」の意の古語

徒心(あだごころ)

「浮気」の意の古語

つと

「じっと」の意の古語

すと

「すると」の意の古語

思ひなし

「気のせい」の意の古語

無下なり

「あまりにひどい」の意の古語、無下=それ以上「下」が無い=最低!

いみじ

いみじははなはだしいという意味の古語で、良い意味も悪い意味もありますが、ここでは「ひどい」の意で使っています。

もろともに

一緒にの意の古語

せむかたなき

「どうしようもない」の意の古語

とく

「いそいで」の意の古語

無用なり

「してはならない=(だめよだめ)」の意の古語

宿世(すくせ)

「運命」の意の古語

ひとへに

「例えるなら=まるで」の意の古語

責(せ)めを持ちて

「責任をもって」の意の古語

やむごとなく

「大事に」の意の古語

CHでのリプレイ


2023年9月9日 お披露目(現在のバージョンの元となったものです。台詞をほぼ古典文にするなどの変更が行われる前のテキストです)

2023年9月15日 こもにゃんさんによる膝開き

2023年9月22日 ひろさん(朗読&女性の台詞)とShigetaka(男の台詞)

2023年10月13日 膝の日朗読 こもにゃん

2023年11月4日 鈴蘭さん。正調膝枕他。

2023年11月13日 いい膝の日。関成孝。

2023年11月20日 こもにゃんさんの朗読

2023年12月20日 他3遍とともに、鈴蘭さん。

2024年1月7日 正調膝枕とともに、鈴蘭さん。

2024年4月1日 正調膝枕他とともに、鈴蘭さん。


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