楓作「続・未来への一歩〜拾われた膝枕」主人公男性編
前書き
いろいろな恋愛ドラマ、胸キュンの恋物語、子どものころを思い起こすような郷愁など、素敵な作品を書かれている楓さん。その作品は、物語の主人公が男のものもあれば女のものもありますが、立場を変えて読み替えても素敵な物語が多いと思います。今回は、「続・未来への一歩~拾われた膝枕」を主人公が男性バージョンにしてみました。楓さんの御了解をいただき公開させていただきます。ぜひ、楓さんの原作とともにお読みください。なお、11月15日に鈴木順子さんと膝開きをさせていただきました。リプレイのリンクをつけてありますのでよろしければお聴きください。
(楓さんの原作)
そして、言うまでもなく、おお元となる、今井雅子先生の「究極の愛のカタチー「膝枕」」。あわせてお読みいただければと思います。
楓作「続・未来への一歩〜拾われた膝枕」主人公男性編(追筆:関成孝)
(太字が楓さんの原作に追筆した部分です)
雨の日の帰り道。
すれ違った車が、スピードを緩めないまま通ったおかげで、俺の足に思い切り水しぶきが飛んできた。はぁ…ついてないなぁ。
201号室の男が、アパートのゴミ置き屋に捨てた段ボール箱を思い出した。
通販好きの男。
箱の中身は腰から下の膝枕。
あの膝枕が届いた日から2ヶ月後…
男の部屋には、女が通うようになった。
そして、あの段ボール箱に入れられた膝枕はゴミ置き場に捨てられていた。
雨に濡れ箱も汚れ、まるで寂しく過ごしている役立たずの自分のように見える。あぁ、惨めだな…捨てられた膝枕に自分を重ねてしまうなんて俺もかなりの重症だな。
部屋に戻ったが、きっと、汚れてるだろうな〜
寒くはないかな?と気になって仕方がない。やっぱり見に行ってみよう。
雨の中、しばらくゴミ置き場の段ボールを眺めていた。
どのくらいの時間そこに立っていたのだろう…
ふと、カタカタ動いていることに気がついた。なんと、動いてる。気のせいか?
箱の中をそっと覗いてみる。
ゴソゴソと膝と膝を合わせて何かを伝えたそうな素振りをしている。
「う、動いてる!!!」
「どうしよう、雨に濡れて汚れてるし
捨てられてるんだから持って帰っても良いよな…」
人が居ないのを確認して、傘を畳み段ボール箱を持ち上げる。結構大きいな…
家に着いて、箱から膝枕を出した。
まずは、全体を綺麗に拭いた。
膝を内側に寄せてありがとう?のような
お辞儀みたいな動きをした。
感情表現も出来るんだ。
あ、スイッチが付いてる。
でも電源コードはない、電池入れるところもないなぁ。ソーラーかな?
明日晴れたらベランダに出してみよう。
膝枕を綺麗にしたら気持ちが休まったのか。眠気に襲われて、そのまま床の上で寝てしまった。
朝方、ぶるっと寒気がして目が覚めた。
「あ、いけね〜そのまま寝ちまった。髪の毛に寝癖着いちゃうよな…」
起きようと思った瞬間、足がつった!!
「イテテテテテ〜」
足が冷えるとすぐつってしまう。
痛い…ふくらはぎまで痛みが走る。
うめいても声を聞く者もいない。
こんな時、ひとりで耐えるしかない。
俺ももう若くないんだな。
なさけない気持ちに襲われる。
おっ、今日は晴れてるじゃないか。
窓を開けて、ベランダに出てみた。
そうだ!昨日拾ってきた膝枕を出してやろう。
光を浴びて、膝枕も気持ち良さそうに見える。
ゴミ置き場にしばらくいたからなぁ。きっと疲れてんのかな?
土曜日の朝はゆっくりと朝寝坊。
ゴロゴロしていたら昼になっちゃったので、膝枕をベランダに置いたまま近所の商店街に買い物に出かけようと玄関を出た。
201号室のドアが開いた。
男が女性と出て来た。あれが彼女か。
細身の結構いい女じゃないか。
腰に手を回して2人で階段を降りて行く姿を俺は上からじーっと見ていた。
まぁ、こんな女がいたら膝枕捨てるだろな〜。
家に膝枕なんて飾ってたら、女も気味悪がって逃げ出しちゃうだろうし。
いつもなら、こんな光景見たらすごく嫉妬するところだが、今日はなんだか気持ちが落ち着いてる。うん、別に気にならない。
俺の気分もジェットコースターだな…
ずーっとずーっと戻って来ることが出来ないマリワナ海溝の底まで気分は落ち込んでたのに。なんでだろう?天気のせいかな?
朝から歩いてなんだか気持ちいい。
前向きな自分に生まれ変わった気分。
いつまでも、こんな気持ちでいられたら良いな…
あ、そうだ、AIチャットも言ってたな。前向きに、自分を大切にしろと。
さ、帰ろう。
清々しい気分で部屋に戻った。ベランダに出していた膝枕を見に行く。
あれっ、ライトが付いてる、充電出来たんだ。
部屋の中に入れた。
拾って来た時より、なんだかシャキッとして元気そうな膝枕。スイッチのところには【男】【女】と書いてある。試しに女の方に、入れてみよう。
「こんにちは、恋愛マスター内蔵ナビ搭載膝枕"ナビ子"です」
「え!喋った!!!会話が出来るのかい?」
「ナビ主さん初めまして、ナビ子ですあなたの恋愛をナビゲートします」
「え?恋愛マスターなの…おっ、俺なんかでもナビゲートしてくれるのかな?」
「大丈夫です。優しくサポート致します」
「本当かい?ありがとう…」
びっくりした〜喋るなんて…なんだか麗しそうな女性の声だし緊張する。
201号室の男は、この膝枕に恋愛相談してたのかな?それで上手くいって彼女が出来たのかな…もしかして、ナビゲートしてもらったら俺にも彼女が出来る??そんなわけないよなぁ。期待するの辞めよう…ダメだった時また落ち込むし。
スイッチどうしよう。消しておこうか。
スイッチをOFFにした膝枕はちょっと寂しそうに見えた。
やっぱ暇だし、スイッチ入れてみようか。
カチッ
「どうしました?ナビ主さん、ナビ子です。ご用件をお伺いします!」
「ご用件…ってほどでもないんだけど。あの…ナ、ナビ子、俺、なかなか彼女出来なくて。いつも女の人に相手にされてなくって。なんでこんなに恋愛が下手なのか。はぁ…こんな愚痴みたいなことを言ってもしょうがないか」
「ナビ主さん、大丈夫ですよ。何でも話してください。私がナビゲートしますから」
「あ、ありがとう…」
俺はこの日から、ナビ搭載膝枕の恋愛マスター"ナビ子"と毎日話すようになった。
女性と話すのは苦手だったけど、ナビ子はすごく寄り添って話を聞いてくれる。そして、色んなアドバイスもくれる。
いつも、自分を否定してる俺に
「大丈夫ですよ自信を持って。顔を上げてください」と声を掛けてくれる。
いっそのこと、ナビ子が人間だったら良かったのに。ナビ子みたいな優しい人と付き合いたい…ナビ子のような…。はっ!俺ったら何考えてるんだろ。バカだなぁ。
「ナビ主さん、彼女を作るためのアドバイスを今日はお話ししますね。インプットはそろそろおしまいです。アウトプット、実践して行きましょう」
「えっ!!あ、はい。そうだよな。ナビ子を頼ってばかりじゃなくて、そろそろ自分の足で歩いて行かなきゃいけないよな」
「ナビ主さん、自信持ってください。あなたなら大丈夫です」
ナビ子が、話し始めた。
彼女を作るにはまず
1. 自分自身をよく知る
自分の魅力や趣味、好みを把握し、自信を持ちましょう。
2. 外出する
外出することで新しい人や出会いが生まれる可能性が高まります。友達との食事やパーティー趣味の集まりなどに積極的に参加しましょう。
3. オンラインでの出会いも活用する
インターネットやスマホアプリでの出会いもチャンスです。ただし、安全面にも注意しましょう。
4. コミュニケーションを大切にする
相手と積極的にコミュニケーションを取り自分自身の魅力をアピールすることが大切です。
5. 自然な流れに従う
焦らず、自然な流れでお互いに気持ちが合えば付き合うように誘ってみましょう。ただし、強引にアプローチするのはやめましょう。
「ナビ子。俺に…出来るかな」
「ナビ主さんゆっくり、出来ることから少しずつ始めていきましょう。きっと素敵な人に出会えますよ」
こうして、俺はナビ子のアドバイス通りまず自分に向き合い、そして、いままであまり見たことのなかったファッション誌を何冊か買ってみた。
あれぇ、これ、俺が持ってるG◯やユニ◯の服とあまり変わんないようにみえるけど。グラビアを真似て、無造作に来ていた服を着なおしてみた。背筋も延ばすんだな。
なんだ?いけてるんじゃないか?そう思ってニヤッとしたら、表情も悪くないじゃないか。
いままで入ったことが無かったブランド店をのぞいてみた。といっても、ユニ◯よりちょっと上というくらいかな。なるほど、同じTシャツでも違いがあるんだ。手に取ってみていたら店員が近づいてきた。思い切って、話を聞いてみた。
「その色、今年の流行で、お似合いだと思います。ゆったり目のものをお召しになって、濃いめのスリムパンツを合わせると良いですよ」
おどおどしながら試着室で着替えてみた。え、これが俺?
見たことのない自分がそこには映ってた。
お店の人には丁重にお礼を言って、また来ますからと言って店を出た。そこでは、まだ、買う勇気がなかった。
でも、なんか、色んな事に前向きになれるようになった。
外出するのが楽しくなった。
今までは誘われても、断ることが多かった。どうせ俺なんかが行っても…
でも、今は違う。
同窓会や、ワイン会。色んなところへ足を運んでいたら楽しめるようになって来た。
SNSのアカウントも作った。
ナビ子のアドバイスに従って、ラジオも聞くようになった。
土曜日の朝、昼に起きていた俺はラジオを聞くために8:30に携帯アラームを
セットした。そして金曜日は、仕事帰りに電車の中でラジオを聞いた。
すると、Twitterでリスナーさんと仲良く話すようになった。リスナーさんの1人からDMが来た。
「いつも仲良くしてくれてありがとう。良かったら今度コンサートに一緒に行きませんか?」
すごい!会ったこともない人と、知り合いになれて一緒にコンサートだなんて!!
なんだか生活に張りが出て来た。
ナビ子さんからは「そろそろInstagramもやってみましょう」と言われた。恐る恐る投稿していたら、気の合う仲間が増えて来た。
今度良かったら集まりませんか?という話しに、俺は思い切って参加してみた!
初めましてなのに、そんな感じしないですよね〜。
そう話しながら、新しい出会いが始まった。
たくさん笑って、たくさん飲んだ。
こんなに笑ったの久しぶりだ〜。
あぁ…楽しい夜だった。
帰り着いて玄関を開けると、LINEの着信音が鳴った。誰だろう?と思って確認するとさっき別れたばかりのヒサコさんだった。
「もしもし、ヒサコさん、さっきはどうも。どうされました?」
「あの〜特に用ってことはなくって、無事家に着かれたかな?と思って」
優しい…心配してくれたんだ。心の奥の方がふっと、暖かくなった。
そのままヒサコさんと1時間程話して、電話を切った。それから毎日のようにヒサコさんと話すようになった。
彼女とは初めてなのに、一緒にいると懐かしい感じがした。話していても良く笑わせてくれる。心地良かった。彼女はゆっくりゆっくりと距離を縮めてくれる。
話すことに慣れて来たところで、2人でご飯行きませんか?と誘われた。
心地よい緊張感。
ヒサコさんは俺のことどう思ってるのかな?
そんなこと思いながら、食事の後少し散歩した。話の流れで、お互いの恋愛感についても話した。
考え方が合うところが多かった。
もちろん、趣味が合わないものもある。
でも、それは当たり前。何でも合うわけないし、自分の知らない事を教えてもらえるのも楽しかった。
家に帰って、ナビ子に今日のことを報告した。ナビ子は、今までの彼女との会話も流れも知っているので、慎重に見てくれていた。いつも俺は相手に合わせてしまう。そこも注意されながら、そして焦らないようにと釘を刺された。
「ナビ主さん、ここまで良く頑張りました。ナビ主さんは、自分自身を見つめて自信も出てきました。積極的に外に出るようになりましたし、SNSを活用してお友達も出来ましたね。ヒサコさんとのコミュニケーショもgoodです!もう、私のアドバイスは必要ありません」
「えっ!アドバイス終わりなの?」
「はい、ナビ搭載膝枕 恋愛マスター内蔵ナビ子はそろそろナビ主さんとの生活は終わりです」
「え、アドバイスが終わっても一緒にいられるんじゃないの?」
俺はびっくりして、泣きそうになった。
「私の役目はここまでです。ナビ主さんはもうひとりでやっていけます。ヒサコさんと仲良くお幸せに…。明日、私を捨てに行ってください」
そっか、そういうことなんだ。この膝枕は捨てられた…というより恋愛がマスター出来たら、次の人のためにまた捨ててもらうんだ。
俺はたまたま拾ったのだろうか?
「ナビ主さん、ナビ主さんは素敵な方です。ただちょっと不器用で、恋愛に慣れていなかっただけ。どんなマインドになれば良いかをお伝えすれば、すぐ彼女は出来るのです。なので、通りかかったナビ主さんを数回見かけましたが、私の心の呼びかけに答えてくれたのはナビ主さんだけです。心の優しいナビ主さんだから、私はお伝え出来たのです」
俺は涙が溢れて、何も言えなかった。
ただただ感謝だけ伝えた。
泣きながらナビ子の言う通りにまた箱にナビ子を詰めた。
段ボール箱を抱えて、ナビ子に指定された場所へと向かう。今度はアパートのゴミ置き場じゃなかった。
"不用品はこちらへどうぞ"
張り紙のしてある場所に、段ボールを置いた。
「バイバイ、恋愛マスターナビ子さん。ありがとう…」
次はどんな人が拾うのかな?きっとまたその人を幸せにするんだね。
寂しくなって夕陽を眺めた。涙で滲んで良く見えない。でも、いつのまにか下を向いて歩くクセが治ってた。
(終)
クラブハウスでのリプレイ
2023年11月15日 スズシゲ(鈴木順子&関成孝)にて原作とともに。
2023年12月3日 鈴蘭さん。楓さんの原作ととともに。
2023年12月11日 鈴蘭さん。楓さんの原作とともに。
2023年12月20日 他3遍とも、鈴蘭さんによる朗読
2023年12月23日 楓さんの作品とともに。鈴蘭さん。
2023年1月8日 未来への一歩、続・未来への一歩ほかとともに、鈴蘭さん。
2024年1月16日 楓さんの「未来への一歩」シリーズとともに、鈴蘭さん。
2024年2月12日楓さんの作品とともに、鈴蘭さん。
2024年2月21日 Yukaさん
2024年2月22日 楓さんの原作とともに、Yukaさん
2024年2月25日 楓さんの未来への一歩シリーズとともに、鈴蘭さん。
2024年3月6日 楓さんの作品【未来への一歩】シリーズとともに。鈴蘭さん。
2024年3月24日 楓さんの「未来への一歩」シリーズ作品とともに、鈴蘭さん
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