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手話CG実況に思う

NHKによる手話CG

 NHKが手話CGの開発に多大な資金を注いでいる。当初の手話CGはNMMがほとんどなく、日本語単語に沿って表現するだけのものであり、とてもほめられたモノではなかった。しかし、オリンピックにおける実況中継を手話CGで行っているというツィートが流れた。確認してみるとバスケットボールの試合を手話CGで実況していた。NMMもマウシングもろう者に近い状態で表現できていたし、日本語に対応させたものではなくチキンと翻訳された状態であった。カラクリをみると、実況の内容にパターンがあり、そのパターンをあらかじめ日本手話の翻訳し、それをCGで登録しておき、名詞的な部分を埋め込んだものであるということがわかる。いわゆる「パターン翻訳」である。こういったパターンの事例を数多く集めてデータベース化し、機械学習させれば、より幅が広がるかもしれない。天気予報についてはほぼ実現可能と思われる。原稿のある講演会とかは手話CGの出番が多いかもしれない。原稿のないものはまだまだ人間に及ばないとかんがえる。

 NHK放送技術研究所の思い出

 僕が大学3年の時だった。卒業研究のテーマを決めるにあたって、理学部のゼミ教授の紹介で、工学部の教授と接した。音声認識を研究している教授だった。彼の紹介でNHK放送技術研究所を訪問した。さまざまな研究を見せていただいた。今から30年も前のことである。1988年だったと思う。NHKの技術の凄さをここで見たのである。音声による外国語を日本語に翻訳して字幕にしているところを見せてもらったのだ。多分、CNNを日本語字幕で見せてもらったのだと思う。音声認識の技術がまだまだなので、うまく日本語に翻訳出来ないと当時の研究者は言っていた。研究者はSUNのワークステーションでUNIXでプログラムを書いていた。C言語だったことは覚えている。手話CGは千葉大学の市川教授、工学院大学の長嶋教授、そして日立製作所中央研究所の佐川研究員が日立製作所社長特命(?)によってアニメーションの研究に取り組んでいた。彼らと工学院大学、千葉大学の弟子たちがNHK放送技術研究所で研究を続けていたのかもしれない。感謝する。

 聖書の手話翻訳( 日本における聖書の手話翻訳は1993年から始まった)

1993年から日本では、日本ろう福音協会が聖書の手話翻訳を進めている。当時は日本聖書協会は、ろう者には日本語で書かれた聖書があるのだからそれを読めばいいのではないかと考えていた。何回かの日本聖書協会との話し合いの中で、手話は日本語を手話に置き換えたものではなく、言語として日本語とは異なる文法を有するものであるということを理解してもらった。

聖書の手話翻訳黎明期のさまざまな課題

 当時(1993年から1995年ごろ)、試行錯誤で聖書の手話翻訳を試みていたが、ろう者の中には、日本手話に翻訳された聖書は「いらない」とか、「分かりづらい」など意見もあり、また字幕をつけてほしいなどの要望があった。特に衝撃だったのは、オーストラリア聖書協会から、ろう者から、オーストラリア手話よりも英語対応手話で英語字幕をつけたものが欲しいという要望があったという報告を受けたことである。その背景に、教会ではろう者集団が形成されておらず、聴者の教会に少数のろう者が参加しており、聴者が理解できる手話での聖書を要望していたこともある。翻って日本では、多くのろう者による教会があり、ろう者集団としての教会運営を可能にしていた。キリスト教国家である西欧やアメリカでは、ろう者単独での教会運営ができていない。日本をはじめとするアジアのろう者は自立した教会運営を行っており、アジアにおける聖書の手話翻訳における意欲はかなり高い。このことについては別の機会にnoteに書こう。

 聖書の手話翻訳にアバターを、そして手話CGへ

 日本で始まった聖書翻訳はさまざまな意見が寄せられていたが、字幕をつけない、日本手話による翻訳を、というポリシーは捨てなかった。そして日本における聖書手話翻訳技術はアジアの中でもトップレベルにあると言っても過言ではないほどに成長した。感謝する。残念ながら、台湾や韓国はまだまだ発展途上の状態にある。台湾はクリスチャン人口が少ないためであるが、韓国はさまざまな教派があり、教派ごとに定められた手話があり、統一が最大の難点になっていた。日本も教派によって手話が異なるが、聖書翻訳において教会に行っていないろう者にもわかる手話による翻訳を心がけている。この中で切実な問題にぶつかった。肖像権である。クリスチャンが手話翻訳の映像に出ることが必要条件だったのである。ノンクリスチャンが手話映像に出ると多くのろうクリスチャンにとって好ましいものであるかどうかが、普通の聖書翻訳とは大きく異なる。手話者をCGで出せないかということは1998年からの課題であった。100年後も使える手話訳聖書を作るためには、手話CGは欠かせない。NHKの手話CGは聖書翻訳の世界でも必要だ。必要に応じて男女のアバターを用意できる。蛇足であるが、スペインではスペイン手話への翻訳に手話CGを使っている。SIgnWritingを記述し、それをアニメーションソフトで作っているらしい。かなり時間を費やしたのではなかろうか?

なお、NHK手話CGの方がクオリティが高い。以下の画像は、スペイン手話による聖書の手話CG翻訳。DEAF BIBLEというWebsiteで見れる。

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NHK手話CGの将来性について

 ぜひ、NHK教育番組の中に手話CGを盛り込むなどの取り組みをお願いしたい。高校数学、高校生物、高校物理などは、高度な内容であるから講師が話していることを手話CGで実現できたらと思う。(僕が理系科目ばかり取り上げているのは、保健体育を含む理系教科においては手話CGで十分だと考えているからである。文系科目は生の人間が通訳する方が良い。理系に強い手話通訳者が少ないことも理由の一つ。)(了)

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