可愛い女…それは浜辺の砂山にそっと咲く一輪の浜木綿に似て
物静かで 気立てが優しく 情け深い娘。柔らかそうなバラ色の頬。真白な首筋にポツリとひとつの黒いホクロ。疑いの心を持たないあどけない微笑。可愛い女 その名はオーレンカ。誰もが言う「可愛い女だ」
しかし、オーレンカは男には不幸だった。最初の夫にも、再婚した夫にも死に別れてしまった。やがてめぐり逢い深く愛し合ったドクターとも、燃える手を引き裂かれることになった。彼女の運命は過酷だった。
オーレンカはまた独りぼっちになった。あの可愛い女 オーレンカが欲しかったのは自分の全身全霊を、理性のありったけを、魂の欠片までも力づくで鷲掴んでくれる男だった。自分に思想を生きる術を与えてくれる愛だった。
可愛い女 オーレンカは待ち続けた。そしてついに!あのドクターと再会した。しかし、運命は又もやオーレンカに過酷だった。
オーレンカが愛したのはドクターの息子だった。
いつか読んだこんなストーリーが冬の夜空に浮かんだ。チェーホフの短篇小説「可愛い女」だ。初めて読んだ時、可愛い女が俺には複雑な存在だったけれど、今はなんだか愛おしい女を感じる。
可愛い女って男にとっては年齢と共に変わってくるものなんだろうね。単なるビジュアルや感性の好みだったこともあったけれど、こうして歳を重ねてくるとチェーホフのオーレンカのような可愛い女に魂を奪われるのかも知れないな。長生きはいいもんだな。
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