Ep28.『自分の為に』
(40歳、女性)
『こんにちは、ビール下さい。』
『(やっぱりこの店のビールは美味しいな。)』
私は以前、近くに職場があり、仕事が終わると良くこの店で一杯飲んで帰っていた。
事務所が移動になり、約5年間お店には来れなかったけど、マスターは私の事を覚えていてくれた。
事務所がまた移動になり、通勤の途中にこのお店がある為、再び通う事が出来る様になった。
いつ来ても、マスターの営業や作り出す雰囲気が気に入っている。
紹介で、値段を気にせず近くの他のバーにも行ってみるけど、やっぱりこのお店が一番落ち着く。
同じお酒を使っているはずなのに、作り手によって味が変わるのは不思議だ。
それもまた、お酒の楽しさかもしれない。
だからこそ、自分が飲んで美味しいと思ったお店に出会えて良かった。
私は以前、マスターが参加したカクテルコンペティションに応援に行った事があった。
それもあってか、先日私が主催で行ったバーベキュー会に、今度はマスターが来てくれた。
その時持って来てくれたロゼワインが美味しかった。
マスターは初めて会う参加者と話しながら、鉄板で焼いた豚肉に、私が作った特製のタレをたっぷりと付けて食べていた。
帰り際、美味しくて食べ過ぎてしまったと言っていた。
そして次回も参加したいと言っていた。
『マスター。先日のバーベキュー会は来てくれてありがとう。』
『持って来て頂いたロゼワイン、とても美味しかったです。』
マスター『こちらこそありがとうございました。あの自家製のタレが絶品でした。』
『いつも通り作っただけよ。お口に合って良かったわ。』
マスター『誰かが自分の為に作ってくれた物って美味しいですよね。』
そうか…
誰かが自分の為に作ってくれたもの。
それは料理かもしれないし、お酒かもしれない。
マスターが作るお酒は、たとえサーバーから注ぐだけのビールでも、飲み手の為に美味しく注いでくれているのだ。
『マスター、美味しいビールもう一杯下さい。』
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グラス一杯の物語【シーズン3】
東京銀座にひっそりと構えるバー。来店されるお客様と、今宵最高の一杯をお出しするマスターのお話。ダサくてもホットな気持ちにさせてくれるエピソ…
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