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Ep.14『コアントローの香り』

コアントローの香り(51歳、男性)

『マスター、コアントローロックで。』

そう言って俺は、今日最後の酒に口を付けた。

俺は長年勤めてきた会社を辞め、昨年末に同じ業界で独立した。

ありがたい事に、事業はうまく行っている。

なんて言えたらいいが、

実際は予期せぬ時代の変化について行くのがやっとだ。

想定して貯金はしっかりと貯めていたので、切り崩しながら家族を養っている。

それでもあと1年が限界だろう。

幸い、来年は一人娘が就職する為、今までより手をかかなくなる予定だ。

俺が独立した様に、娘にも好きな事をして人生を送って欲しいと思う。

それはそうと、

この酒は良く学生時代に飲んだっけな。

強烈なオレンジの香りと、それを支える苦味と甘味。

あの頃好きだった彼女や音楽を、いつでも思い出させてくれる。

どうやら嗅覚というのは記憶に残りやすいらしい。

それから、前から思っていたけど…

なんで透明な液色が、ロックにすると白く濁るんだろう?

『マスター、なんでコアントローは白く濁るんだい?』

マスター『それは、氷で冷やされる事によって溶け込んでいた成分が白く析出するんです。故に、別名ホワイトキュラソーとも呼ばれています。良いコアントローの証拠なんです。』

そうなのか…

氷で冷やす事で白くなり、それが良い酒である証なのか。

俺もこの酒みたいに、

刺激を受けることによって、いつでも実力を発揮できる存在であり続けたい。

そんな”ロック”な人生を、俺はこれからさらに歩んでいくぜ。

『マスター、コアントローロックおかわり。』

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東京銀座にひっそりと構えるバー。来店されるお客様と、今宵最高の一杯をお出しするマスターのお話。ダサくてもホットな気持ちにさせてくれるエピソ…

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