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Ep.18『忘れていた思い出』

(68歳、女性)

『お久しぶりです、マスター。』

『スパークリングワイン下さい。』

私は約半年ぶりに来たお店のカウンターに座ると、久しぶりのお酒に口を付けた。

以前は月に2回、近くで仕事がある度にこの店に寄っていた。

現在は母の介護と、知り合いの仕事の手伝いがあり、外出する回数がすっかり減ってしまった。

その為、この店からも足が遠くなってしまった。

時間が空いても、マスターは私の事を覚えてくれたみたいだ。

この店はイタリアワインが多く置いてある。

マスターはイタリアが好きなのだろうか。

私はふと、若い頃に仕事で行ったイタリアの事を思い出した。

あの時に食べた煮込み料理と、赤いスパークリングワインが忘れられない。

とても美味しかったのを覚えている。

北イタリアの…

どこだったかしら…

『マスター。イタリアの赤いスパークリングワイン。なんて言ったっけ?』

マスター『ランブルスコでしょうか?北イタリアにあたるロンバルディア州が名産です。このお店にもありますよ。』

『そうだ、ランブルスコ。それをちょうだい。』

ーお待たせ致しました、ランブルスコですー

そうだ、これこれ。

フルートグラスに注がれた真っ赤なスパークリングワイン。

『(ゴクリ)』

思い出したわ。

あれはボローニャ駅近くのスタンディングバー。

現地に駐在している友人と一緒に飲んだことを。

二年ぶりに再会した私たちは、朝まで話が止まらなった。

私は次の日に日本に帰国し、しばらく彼とメールのやり取りが続いた。

彼はその後、現地の女性と子供を授かったと言っていたけど…

今は何をしているのかしら。

すっかり忘れていた大切な思い出を、このお酒が思い出させてくれたわ。

『マスターありがとう。』

『良かったら、一緒にランブルスコ飲みませんか?』

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東京銀座にひっそりと構えるバー。来店されるお客様と、今宵最高の一杯をお出しするマスターのお話。ダサくてもホットな気持ちにさせてくれるエピソ…

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