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【二次創作SS】パパは暗殺者(アサシン)

※この物語は、ぱりこさん作 パパは暗殺者(アサシン)の二次創作になります。


真夜中の台所が好きだ、と真由(まゆ)は思う。
サビていた包丁をリズミカルに研ぎながら、明日は何を作ろうかなと考えているところだった。

健全な中二女子のやる事じゃない、と思いつつも気になってしまったものは仕方ない。母のいない真由は忙しい父親の代わりに家事をこなしている。料理は得意だし苦にならない。双子の姉がいるが、いろんな意味で彼女にはこんな事は任せられないと思っていた。

包丁を研いでスタンドに立てる。洗い残したものもないし、今から下ごしらえしないといけない食材もない。

「遅くなったわ。もう寝よう」
丑三つ時のちょうど真ん中の時間だろうか。パパが帰宅していないからとつい夜更かししすぎてしまった。真由は小さくため息をつきながらベッドルームへ向かおうとした――と、玄関前で小さく音がする。

父親が帰ってきたようだ。
以前は都度とがめていた朝帰りも、彼の本当の仕事を知ってしまった今となってはいちいちチェックする気も失せた。どこか後ろ暗い仕事をしているのだろうと聡い彼女は気付いていたが、まさか法に触れる仕事だとは。彼は暗殺者(アサシン)で、彼女たちの母親は姉妹が4歳の時に殺害されていた。知ってしまえばすべての行動のつじつまが合う。それ以上詮索する必要はなかった。

過去の話を聞かされていない頃、姉の未有(みゆ)はともかく真由はパパの本当の娘ではないと信じていた。何らからの事情で引き取ってきた子供を押し付けられ、育てる羽目になったのかと思っていたのだ。
それくらい、真由と未有は似ていない。双子だなんて誰が聞いても嘘と思う。それが面倒で彼女はわざと偏差値の高い私立の中学校を受けた。お金には困っていないと聞かされていたし、未有と同じ学校に通って比較されるのが嫌だったのだ。別に憎しみ合っているわけでもないのだから、学校に行っているときくらい離れていても良いだろう。

未有は友人もたくさんいるし、先生にもなついて楽しそうだ。
真由は別にどこの学校に行こうが、特定の友人を作るつもりなど無かった。望む通りの生活を送れているし不満もない。

いや、子供である自分が不満といえば不満だった。早く大事なものを守るために、役に立てる自分でありたい。家を守り、毒薬に関する知識を蓄えていても、まだ未成年であるという現実は時に彼女を焦らせていた。

パパの仕事を知った時に、本当に自分たちが彼の子供であるという事も知った。逆に真実の方が嘘っぽいというのも面白い話だ。ママの記憶はないしパパに似ているところも見当たらない。
何だかもどかしいと思うけれど、その思いを悟られるのも嫌だった。


深夜に帰宅したパパと顔を合わせるのが嫌で、暫く時間を潰す。
物音がしなくなってから廊下に出て、そっと洗面台へ移動しようとしたとき――何かに躓いた。

「!?」
疲れ果てたのだろう、廊下で高いびきをかいて寝ている父親を尻目に真由は自分の部屋へ行こうとしてふと、思い立って足を止めた。

パパの隣に座り込むと、彼の前髪をかき上げる。
三白眼気味の切れ長の瞳の面影は真由にも未有にもない。せめてママがどんな人だったのか知りたいけれど、遠慮して口には出せずにいる。記憶が無いというのは時に残酷な事だ。もう会えないのならせめて写真だけでもと思うのに。


じっと見ていると、彼が薄目を開けた。真由が飛びのこうとするその瞬間――腕を掴まれる。パパの顔が見たことも無い男の顔に見えて、怖くなった。
「なあんだ、由未さんか」
間延びした声でパパが言う。由未はママの名前だ。パパの顔がいつものように緩む。
「相変わらず真由そっくりだねぇ」
「真由?美有じゃなくて?」黙っていられなくて真由が問いかけると、パパはふふっと笑う。
「どちらかと言うと由未さんに似てるのは真由だよ。あの子たち良い子に育ったからさ、たまには見に来てよね……」

パタンと音をたてるように倒れ、そのままパパは爆睡モードに突入する。


――どちらかと言うと、由未さんに似てるのは真由だよ。
この言葉が頭から離れない。

朝食の支度をしていると未有に
「何かいいことあったの?」と聞かれる。
「え?なんで」
「わかりにくいけどー、嬉しそうに見えるから!」
「そうかな?」

両親に似ていても、似てなくても彼らの娘だという事は揺るがない事実だけど、母親に似ていると言われると、嬉しいと言うよりもホッとする。

真由は未有のために焼いたオムレツを取り分けながら、食卓をセッティングする。
「パパはどうする?」
「放っておきましょ、そのうち起きるわ」
「だね」

いつもの日常が始まろうとしている。
真由は父親を巧みに避けながら玄関に向かった。その姿を見ながら

――いつかでいいから、ママの話を聞かせてね。

心の中でパパに呼び掛ける。
きっと私たちが大人になれば、話してくれるに違いないから。そう信じて、彼女は玄関のドアを開けた。


<FIN>

こちらは伊藤巴さん(ぱりこさん)のオリジナル漫画の二次創作イベントで書いたショートストーリーになります。
パパは暗殺者(アサシン)ずっと気になっていて、先日ようやく購入できました。Twitterやpixivでも読めるので気になる方は!

それにしても、久しぶり過ぎる二次創作なので緊張します。
原作の世界観を壊さないように頑張ったつもりですが……。お楽しみいただけたら幸いです。

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