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災害におけるアレルギー疾患の対応(その3)

アレルギー疾患がある方が災害時にすべきこと(掲示用)

今日は「アレルギー疾患がある方が災害時にすべきこと」について説明します。この資料は1ページだけです。印刷してポスターとして医療機関などに掲示できますし、自宅に貼っておいてもらってもいいと思います。

啓発用ポスターをイメージして作成しましたので、記載はひと目でわかるようにしています。上半分には避難所に行く場合に必要なもの、(お薬手帳、スペーサーなども含む)、食料(3日分)情報ツールが記載されています。他の資料には持ち出すものについてもう少し詳しく書いてありますが、ここはシンプルにしています。アレルギーがある方は、これだけは忘れないでねという感覚です。一般に自宅での食料備蓄は1週間が推奨されますが、食物アレルギーの方は2週間分をおすすめします。下半分は発災前後でやるべきこと、収集すべき情報などを簡潔に記載しています。

「自助」と「公助」について

資料の内容はこれだけですが、ここでは、自助公助の考え方について、解説と問題提起をしておきます。

自助は、自分で自分とその家族を災害から守ることです。共助は、地域・組織・グループで助け合うことです。公助は、役場や消防、警察、自衛隊といった公的機関による救助活動や支援物資の提供などの公的支援のことをいいます。

自助、共助、公助の割合は、7割、2割、1割が良いとされます。公助には限界があります。東日本大震災ような大規模広域災害の場合は、行政がすべての地域に対応することが難しくなります。交通も寸断され、物資の輸送が滞りますし、行政自体も被災して機能が麻痺することもあります。行政の担当者がするべきことは膨大で、特に急性期は他の優先すべきことに忙殺される可能性があります。

医療も、急性期には、生命の危険が切迫するような外傷、透析、人工呼吸器、新生児医療などが優先されます。アレルギーに対する医療支援は亜急性期、慢性期が主となります。

そうすると、急性期は自分と周囲の人でなんとか持ち鍛えなければなりません。そこで、自助共助が大切となってくるわけです。地域住民一人ひとりや地域コミュニティ全体が、「災害はひとごと」と思わず、いつ発生するかわからない災害に備え、自分でできること、家族でできること、隣近所で力を合わせてできること等を考え、また、相互に助け合うことが大切です。

細かい点に関しては、難しいところもあります。ひとつ例を挙げましょう。災害医療に従事する栄養士への調査で、アレルギー対応食品に関しては、2日以内に80%の患者さんに配送することができたが、アレルギー対応ミルクは、他の食品に比べて手配が遅くなったというデータが得られました。自治体へのアンケートでは、アレルギー対応ミルクの備蓄が十分でないこともわかりました。では、自治体によるアレルギー対応ミルクの備蓄をより充実させればいいでしょうか?

各自治体にアレルギー対応ミルクが必要な方がどのくらいいるか、ざっと計算してみましょう。乳児の食物アレルギーの有症率は約10%、そのうち4分の1が牛乳アレルギーです。そうすると、乳児1000人あたり25人ということになります。今人口の100分の1が乳児ですから、10万都市で牛乳アレルギーの乳児が25人ほどいることになります。人口1万人の街であれば、牛乳アレルギーの乳児は2から3人です。離乳食が進んでいる人もいますし、母乳で栄養が十分な方もいるでしょうから、実際にアレルギー対応ミルクが必要な人はもっと少なくなります。そうすると、規模が大きくない自治体でアレルギー対応ミルクを備蓄し、公助ですべてまかなう政策は、効率的といえないかもしれません。

実際に行政にアンケートを行うと、自治体の規模が小さいほど、アレルギー対応ミルクを備蓄していないことがわかりました。その場合、自助として、家庭でアレルギー対応ミルクを備蓄する方がより有効であると思われます。

実際、発災後の混乱期にアレルギー対応ミルクを少数の必要者にうまく配布できるかという問題もあります。やはり急性期は自助でしのいだ方が良さそうです。

この話を、別の医師としていたら、「乳児のためのミルクの備蓄を全てアレルギー対応ミルクにすればよいのでは」という意見が出ました。確かに、アレルギーがない乳児でもアレルギーミルクを飲んでもいいわけですから、現実的な対応としてはひとつの方法かもしれません。

自助、共助、公助に関しては、地域の事情に合わせてバランスを考え決める必要がありそうです。

さて皆さんはどう考えますか?

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