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災害におけるアレルギー疾患の対応(その1)

はじめに

厚生労働科学研究費補助金によって行われた「大規模災害時におけるアレルギー疾患患者の問題の把握とその解決に向けた研究」で、アレルギー疾患をお持ちの方の災害時の対応に役に立つツールを作成しました。それが下にお示ししております「災害におけるアレルギー疾患の対応〜アレルギー疾患をお持ちの方、災害に対応する行政の方、災害医療に従事する方へ〜」です。

前にも少しご紹介しましたが、これから各資料を何回かに分けて解説していこうと思います。

今回のプロダクトは表紙、目次等を含んで56ページからなり、印刷、ダウンロード、携帯機器やPCでの閲覧が可能なPDFで作成しています。現在日本アレルギー学会のアレルギー情報サイト「アレルギーポータル」に掲載されており、どなたでも自由に閲覧、ダウンロードが可能です。

行政、患者、災害医療従事者などに対するアンケート調査のデータを参考にしつつ、次にお示しするような原則で作成しました。
・わかりやすく、短時間で理解できるようにする→専門用語を最小限にし、イラスト・写真を多用した。
・状況に合わせて、複数の方法で閲覧できるようにする→ PDF形式とした。
・アレルギーをお持ちの方だけではなく、避難所を運営する行政、実際に現場で医療を行う医療従事者向けの資料を横断的に作成する→情報やニーズの共有を図った。
・資料ごとに対象者を明記する→ただし対象は厳格なものではなく、誰が読んでも役に立つように作成した。
・容易にアクセス、ダウンロードできるようにする→アレルギーポータルの災害対応のページのトップに掲載した。
・何をすべきかといった現実的な対応を重視する

表紙の裏には挨拶文と作成したツールの内容、それぞれのツールの対象者を明記しました。わかりやすいように色付きの●、▲、★で表示しました。

ツールの内容です
1 災害時におけるアレルギー疾患への対応
2 アレルギー疾患がある方が災害時にすべきこと
3 アレルギー疾患のための災害への備えと対応
4 お薬・水・食料備蓄できていますか?(掲示用)
5 アレルギー表示の注意点とアレルギー用ミルクの紹介
6 東日本大震災の避難所で実際に起きた事例
7 一般向けFAQ集
8 自治体のための災害の備えと避難所運営の手引き
9 災害時のアレルギー治療薬
10 リンク集
付録1 アレルギーゼッケン
付録2 そなえるブック

災害時におけるアレルギー疾患への対応(喘息への対応)

それでは、最初の資料「災害時におけるアレルギー疾患への対応」をご説明します。アレルギーをお持ちの方が対象ですが、行政の方が読んでも役に立つと思います。行政へのアンケート調査で、アレルギー疾患の基本的なことを知りたいという要望が多いことが判明しましたが、その要望にも沿えるものだと思います。難しい医学的なことは書かずに、実際にどう対応するかを中心に記載するように心がけました。

まず最初のページは喘息への対応です。

ぜん息への対応


避難所ではいつもと違う環境で生活しなければなりません。寝具を清潔に保つのが難しいですし、ほこりなども多くなります。瓦礫からの粉塵があるかもしれません。寒かったり、暑かったり、温度のコントロールも難しいです。つまり喘息が起きやすい状態にあります。

他の避難者との距離が近いことも問題です。ペットを持ち込んだり、原則禁煙にするべきですがタバコを吸ったりと喘息の引き金となる要因が多くなります。うまく避けたいですね。感染症も心配です。

喘息を誘発しかねない原因について知っておく事は大切です。避難所ではそのような原因がある場所にできるだけ近づかないようにしましょう。またマスク、きれいなタオルなどを活用し、原因となるホコリなどの物質、煙、冷気を吸い込まないようにしましょう。感染も喘息の誘因となりますので、マスクは大切です。

周囲に喘息があることを知らせておくことも重要です。災害の時は大変な状況ですから、どうしても遠慮してしまいますが、避難所の担当者の方に伝えておくことは大切です。アレルギーをお持ちの方は、災害時には法的にも「要配慮者」とされていますので、行政は対応しなければいけないことを知っておいてください。ペットや喫煙の問題も、直接言うとトラブルになりかねませんから、避難所の担当の方に伝えて対処していただくのが良いでしょう。情報の伝達には、今回の資料にあるそなえるブックを活用するとよいと思います。

いつも使っている発作の予防薬を、避難時にもしっかり使いましょう。必要な薬は日ごろから備蓄しておくと、いざというとき安心です。薬の情報は家族みんなで共有しておきます。予防薬を使っていても、咳き込んだり、発作が出る場合は、医師にかかる必要があるかもしれません。スタッフに相談しましょう。予防薬が足りなくなった時も、必ず伝えましょう。最近は薬剤師も災害支援に来ておりますし、モバイルファーマシーなどというものもあります。お薬手帳を携帯しておくと便利です。

喘息の治療のために電動の吸入器を使わなければいけないこともありますが、電源がない場合、非常電源を使わせてもらえない場合などは、手動でプッシュするスプレータイプの吸入器を使わなければいけないかもしれません。その場合はスペーサー(吸入を補助する器具)を使いましょう。スペーサーが手に入らない場合は、紙コップやペットボトルで作ることができます。パンフレットの図をご覧ください。平時にスペーサーを購入し、ストックしておくことも大事です。

もしも発作が起きて苦しくなったら、決してがまんしてはいけません。周囲に知らせてください。水分をしっかりとって、ゆっくり深く息をします。もたれかかる姿勢が楽です。発作の時の飲み薬、吸入薬などは必ず使いましょう。薬を使ってもなかなか治らない場合や寝ていても目が覚めてしまう場合など悪化した場合は、医師の診察や治療が必要となる可能性があります。遠慮せず、早めにスタッフに声をかけましょう。病院に行くような発作より軽めでも、知らせておいたほうがいいと思います。突然言われても担当者はすぐ対応できないかもしれません。情報を早めに共有しておくことが大事なのです。

最後に最も大切なことを書いておきます。それは、日頃からの治療をきちんと行って、喘息のコントロール状態を良くしておくことです。喘息のコントロールを良くしておくと、環境の変化が多少あっても発作が起きにくくなります。

本日の記事はここでいったん終了します。「災害時におけるアレルギー疾患への対応」の続きはその2で解説しますので、お待ちくださいね。

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