いちどめ

2019/12/09登録。

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【お詫び】「【小説】カノコユリの香り」について

このお詫び記事は、このお詫び記事よりも以前に 【小説】カノコユリの香り を途中、具体的には⑵以降までお読み頂いた方へ向けたものとなります。 私 いちどめ の拙作に貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございます。このたびは私の編集ミスにより、本来⑶として投稿しようとしていた内容を、⑵の中に続けて記入した状態で投稿してしまっていたため、⑵の余分となっていた部分を削除し、改めて⑶として投稿させていただきました。 これにより、既に投稿されていた⑶以降のナンバリングが1つずつ繰

    • 【小説】カノコユリの香り⑶

       もしかしたら、今はまだ害がないだけで、今後何か良くないことが起こるのではないだろうか。  電車を降りてから、自宅に着いてから、眠る前、眠っている最中、夢の中で、目が覚めてから。時間を空けて何かしらの不吉が訪れないなどという保証が、いったいどこにあるというのだ。  手との接触を果たしてからというもの、私の中ではそんな不安がぶくぶくと成長し続けていた。  理由は明白である。  恐ろしかったのだ。  紛れもない怪奇現象に遭遇してしまっただけでなく、事もあろうに私は自らそれに近づき

      • 【小説】カノコユリの香り⑹了

         昼過ぎに人身事故が発生したらしく、夕日の沈みかけた今になっても、ダイヤには多少のずれが生じている。  普段よりも人の多いホームで電車を待ちながらインターネットを見ると、どうやら若い女性が身を投げたのではないかということだった。  そのニュースは、確証もなしに、私を激しく後悔させた。あの時、もっと優しくしていたら、あるいは。私なんかではなく、もっと懐の深い誰かが相手をしてやっていれば、もしかしたら、こんなことにはならなかったのではないか。  私のせいなのではないか。  耳に届

        • 【小説】カノコユリの香り⑸

           私が乗り込んだとき、吊り革は健気にも孤独だけをぶら下げてその身を揺らしていた。プラスチック製の真っ白な穴は、手の姿を欠くとどうにも不格好で、不自然で、奇妙である。激しい義務感が脚を急がせるせいで、私は気持ちの準備ができないままに手を伸ばす羽目になってしまった。  すぐに、指の感触が手の甲を伝い始める。安心した。昨日は、少しばかり勝手が過ぎたような気がしていたのだ。まさか肘まで引き出される羽目になるとは思っていなかっただろうに、嫌われてしまっても文句は言えまい。昨日までと変わ

        【お詫び】「【小説】カノコユリの香り」について

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        • 【小説】カノコユリの香り
          7本

        記事

          【小説】カノコユリの香り⑷

           明くる日、私は何の障害もなく手を重ねることができた。  吊り革を持つと、それまで誰にも相手をしてもらえなかったのが不満だったのだろうか、私の手を握る力は昨日よりも強くなっているようである。  光栄なことだ。誰でもない、私が、孤独を癒してやることができているのだ。  有名な百貨店の看板が通り過ぎ、背の高いホテルが後退し、人気のない踏切が置き去りにされていく。星よりも明るく疎らな光たちが各々のペースで車窓を横切り、姿を消してはまた生まれ変わる。  無音の風景に包まれた車内には穏

          【小説】カノコユリの香り⑷

          【小説】カノコユリの香り⑵

           確信した。手は、やっぱり無害な存在なのだ。  そう思うと、爆発しかけていた恐怖心が急激に縮んでいった。代わりに思い出されるのは、私の手に乗っていた僅かな重みと、見えずともはっきりと分かった指の感触である。  確かめたくなってしまった。  手が出てこないことを、ではない。たった今感じたあの感触を、今すぐに、もう一度、確認したくなったのだ。  触られたばかりの手を、再び輪に近づけていく。  心臓が暴れていた。  さっきの驚きが残っているのかも知れなかった。恐怖心をごまかすための

          【小説】カノコユリの香り⑵

          【小説】カノコユリの香り⑴

           手の話ですか。  していらっしゃったでしょう、手の話。  何と言ったら良いんでしょうかね。そうですね、ええ、もしかしたら私、知っているんじゃないかと思いましてね。  はい。そう、手をです。  見つけたと言いますか、今申しました通りね、知っているんですよ。  どこで、と聞かれましてもね、そうですねえ、とても、申し上げにくいのですけどね、  ここ、なんですよ。  ああ、いえ、今はね、どうやら、いないようです。  嘘、と言われましてもね、ううん、残念ながら証拠などはないのですが、

          【小説】カノコユリの香り⑴