ぼくは主演俳優を手放さない

 今日の記事は文字数少なめでいきます。だって、昨日投稿した「ぼくは彼女と高級喫茶店へ行く」という記事なんて文字数6,195字である。「大学の近くの個人経営の喫茶店に彼女と行った。パンケーキが美味しかった」というだけの話で6,195字である。異常だ。どう考えても異常だ。書くほうも書くほうだが、読むほうも読むほうである。スキをつけるひとも異常だ……って、うそ、ウソ。あなたが読んでくれて、スキをつけてくれて、ぼくは本当に励みになってます。うれしいです。ぼくはあなたのこと好き。大好き。ねえ、本当に好き。なんちゃって。恥ずかし。

 さて、文字数少なめで済むテーマといったらこれしかない。岩下のこと。ぼくが所属している大学の放送サークルの一学年後輩の男子の岩下のこと。通称「ガンちゃん」。ぼくはサークルで音声ドラマを作っているのだが(具体的には脚本と演出をやっているのだが)、ほぼすべての作品で岩下に主演を務めてもらっている。去年の5月の発表会からずっとそうだ。まだ岩下は入学&入部して一か月しか経っていないのに、ぼくは周囲の慎重論を押し切って岩下を自分の作品の主演に抜擢した。理由は単純である。ぼくのドラマの主人公は「ふつうの男子」的なキャラクターになることが多くて、それを演じられそうな部員はぼくの同期にはいなかったからである。

 ぼくが一年生の時は違った。一年生の時、ぼくは自分の作品の主演を先輩の森さんに演じてもらっていた。ぼくが本格的に音声ドラマを作るようになったのは一年の秋学期からのことで、だから一年生の時はそもそも二本しかドラマを作っていないのだが、その二本とも主演は森さんだった。なんで森さんなのかっていうと、うちのサークルは謎のプロダクションの社長に委託されて毎週ウェブ番組の配信をしているのだが、その中の「七尾班」(七尾先輩がプロデューサーだった班)でぼくと森さんは一緒だったからだ(七尾班の話を始めるとまた文字数6,195字になりかねないので割愛)。

 「ふつうの男子」を主人公にした音声ドラマを作るぼくにとって、まさに森さんは理想の主演俳優だった。森さんは声がいい。台詞の抑揚のつけ方が上手い。特にツッコミ台詞を言うのが上手い。その加減が完璧なのだ。たぶんこれは森さんが本来はDJ番組(トーク番組的なやつ)のパーソナリティだからだろう。普段の感じで、FMラジオのパーソナリティ的な調子で演技をするから、それがぼくの「(異様な出来事や奇妙な人物たちに振り回される)ふつうの男子」像に上手くハマったのである。森さんは山口県出身なので微妙にアクセントが気になる時もあったが、まあそれは許容範囲内だった。

 いかん、いかん。岩下の話をするつもりが森さんの話になってしまった。ぼくのnoteはいつもこんな調子で文字数6,195字になってしまうのである。森さんは素晴らしい俳優だが、でも、ぼくにとっては俳優である前に先輩である。どうしても気を遣わざるを得ない。演技指導の面でやりづらさを感じていた。それに森さんはぼくより一年早く引退してしまうわけだから、ずっと頼るってわけにもいかない。そもそも森さんは本来はDJ番組のパーソナリティ志望なわけだし。そういうわけで、ドラマ俳優志望の岩下が入部してきたのをこれ幸いとして、ぼくは自作の常連主演俳優の座を森さんから岩下へとシフトしたのである。ルックスもどことなく似ているしね。

 ぼくは最初、岩下を森さんの下位互換としか思っていなかった。声のよさも演技の上手さも森さんほどではない。顔面偏差値も森さんが70〜72だとしたら岩下は63〜65だ(それでも一応ハンサムではある)。でも、岩下と組んでドラマを作っているうちに、明らかにぼくの作品の幅は広がったように思う。ぼくは脚本はいつも「当て書き」(あらかじめ出演者を決めてから脚本を書く方式)で書いている。だから、ぼくの脚本は必然的に出演者の個性に影響を受ける。岩下を自分の作品の主演に据えるようになって、ぼくはシリアスな展開やファンタジックな描写を堂々と打ち出せるようになった。単にぼくが劇作家として成長しているってだけの話かもしれないけど、でも、岩下が主演だと想定するとぼくはそういう作品を書きやすいのだ。

 ぼくのnoteを普段読んでくれているひとならご存じかもしれないけど、ぼくと岩下は人間としての相性が決してよろしくない。というか、最悪に近い。ぼくのほうは岩下と仲良しでいたいのだが、岩下のほうはぼくに対していつでも反抗期なんだよな。でも、ぼくらは音声ドラマの作り手と俳優としてはたぶん相性がいい。少なくともぼくは岩下を手放せない。こういうこと書くのはめっちゃ恥ずかしいけど、ぼくはもう、自分の作品の主演はガンちゃんじゃなきゃ嫌なのだ。たとえ森さんがぼくの同期として転生してきたとしても、ぼくはもう主演はガンちゃんがいい。いまでもぼくは岩下のことを森さんの下位互換のように思う瞬間があるが、そんな「パーフェクトじゃないところ」も含めてぼくは岩下を役者として買っているのである。

 岩下のほうもぼくからの出演オファーを断ることはないんじゃないかな。岩下はぼくの才能をきちんと理解している部員の一人だと思う。ぼくの書いた脚本のどこそこがいいとか具体的に言ってくるし(「よく書けてると思いますよ」とかいう上から目線なのが気になるが)。あと、岩下はぼくのことを嫌っているようでいて、実はただのツンデレ野郎なんじゃないかとも思う。だって、以前ぼくが体調を崩して練習の中止を連絡した時、他のひとは「了解! お大事にー」程度のリアクションだったのに対し、岩下は「大丈夫なんですか? いつから具合悪いんですか? ちゃんと眠れてます?」って、他の誰よりもぼくの健康状態を気遣ってきたもんな。ぼくが弱っているのを確かめて喜びたかっただけの可能性もあるけどさ。

 でもまあ、それならそれでもいい。どんなことがあろうと、岩下はぼくの作品に欠かせない主演俳優だ。きっと向こうもそう思っていると思う。「(ぼくの下の名前)さんの作品の主演は自分以外にあり得ない」って自惚れていると思う。この前の6月の発表会(一年生主体の内部発表会)でぼくは数分程度の音声ドラマの台本を一年生に提供したんだけど、岩下は「(ぼくの下の名前)さんの作品でぼくが主演じゃないのって珍しいですね」とか自分で言ってたもん。それはぼくの「作品」ってわけじゃないし(ぼくは一年生に頼まれて短い台本を提供してあげただけ)、そもそもそれは女性が主人公の物語だったのに。……って、結局、岩下のどうでもいい話でも2,700字になってしまったではないか。どうなってるんだ、ぼくの長文癖は!

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