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20周年のついでに、COOが『VRオフィス』を作ってみた話 〜ゲスト:トバログさん〜

こんにちは、シフトブレイン広報の坂です。

シフトブレイン20周年プロジェクトをご紹介する連載企画。2回目は『VRオフィス』をご紹介します。

今回はシフトブレイン20周年に合わせてVRオフィスを制作したCOOの鎌田さんと、制作アドバイザーとしてご協力いただいた『トバログ』を運営されている鳥羽さんをゲストに迎えて、お話をうかがいました!


SHIFTBRAIN VR OFFICE

いつでも、どこにいても、すぐに集まれるオフィス。
今年引っ越したばかりの東京オフィスと、広島県は江田島にある“えたじまサイト”。扉を開けたら2拠点が繋がっている、シフトブレインのVRオフィスをつくりました。内装は、実際のものを忠実に再現。フルリモートで働く私たちの新しいコミュニケーションツールとして活用していきます。

ゲストのご紹介

鳥羽恒彰さん
シンプルなガジェットや暮らしの道具を紹介するメディア『トバログ』を軸に、紙媒体や動画コンテンツなどさまざまな分野で活動する。自称ミニマリストの対岸にいる人。

『トバログ』は、PCやカメラなどの『ガジェット』を中心に、『暮らしの道具』や『旅のコト』について綴る個人メディアです。良いと思ったモノや楽しかったコトなどを、鳥羽さんの目線で紹介されています。
twitter / YouTube / Instagram

鳥羽さんと鎌田さんの出会いのきっかけは『トバログ』のロゴ。鳥羽さんが「誰かロゴを作ってくれないかな」とtwitterで呟いたところに、鎌田さんが手を上げて作ることになりました。ロゴに関するやりとりは全てオンラインで進んだのですが、鎌田さんが『トバログ』YouTubeの動画取材を受けた際に仲良くなったそう。おふたりともモデリングやVR空間への興味など、好きなものが共通していたため、その後も趣味仲間として交友が続いています。

取材したのは4月下旬のApple WWDC23の1ヶ月前。Appleからなにか新しいデバイスが出るかも?と、期待いっぱいの様子と合わせてお楽しみください!

【左】鳥羽さん(※以下、トバログさん)
【右】鎌田 亮平(シフトブレイン COO / Art Director / Designer)

フルリモートだからこそ、気軽に集まれる場所をつくりたい

——はじめに、VRオフィスを作ろうと考えた理由を教えてください。

鎌田:きっかけはトバログさんとの出会いです。僕は5-6年前にVRを使ったことはあったけど、当時は「新しくて面白かったけど、画質もイマイチで、こんなもんか。」って感じでした。でも、仲良くなったトバログさんのVRへの熱量が半端なくて......改めてVRを触り直したらすごく進化してたんです。VRChatっていうサービスを教えてもらったんですけど、そこでは世界中の人たちが仮想空間に集まっていて、会話やコミュニティが生まれていました。これまでとは違う世界がVRにあることを知ったんです。

シフトブレインはフルリモートで働く場所は自由だし、仮想空間にオフィスを作るのは新しい切り口だなって思って。今後そういう流れがくるかもしれないから、その先駆けになりたいと考えました。そこで、トバログさんに色々聞きながら作り始めたのが去年ぐらい。

——昨年、シフトブレインのオフィス移転お知らせサイトで3Dモデルを作られていましたよね。

鎌田:Blenderで3DCGのモデリングを始めたのもトバログさんの影響だったんですけど、ちょっとやってみたら意外と作れるようになって。そのタイミングとオフィス移転が重なったので、レイアウトなどを決めるために新しいオフィスのモデリングを始めました。平面図だと想像しづらいし家具もなかなか決められない......シミュレーションしてみんなに見える化するために作ったものです。その延長線上に「VRオフィスを作ってみたい」っていう思いもあったので、いずれにしてもオフィスのモデリングは必要なプロセスでした。

SHIFTBRAIN New Office

——VRオフィスの制作を進めるなかで、トバログさんとはどのような関わりがありましたか?

鎌田:初めからVRオフィスと直結していたわけじゃなくて、最初はモデルの作り方や質感の極め方とか、勉強会みたいなものをふたりでよくやってました。

新オフィスのモデリングが完成してVRオフィス制作に着手しようと考えたあたりで、正式にトバログさんにサポートをお願いしました。VR空間を作る際にはUnityっていうソフトを使うんですけど、僕はUnityに関しては無知だったので......。トバログさんは一歩先にUnityで空間を作っていて知見をお持ちだったので、Unity周りでは力を借りたくて。

トバログさん:鎌田さんには、VRオフィスを作る際の初期設定をチュートリアル的に教えたり、アドバイスしたりしました。Unityは細かくバージョンが指定されていて、入れなきゃいけないツールがあったりするんでややこしいんです。僕も初心者だったけど見よう見まねで情報を集めながら、自分の部屋をVR空間上に持っていくっていうのをやっていたので。

鎌田:トバログさんの動画を見て、こういうのをいつかシフトブレインのオフィスでもやってみたいなって思ってました。

——トバログさんがVR空間を作り始めたきっかけは?

トバログさん:以前にも古い世代のVR HMDを使っていたんですけど、その時はゲーム以上のことはしませんでした。その後にコロナ禍になって.....Metaが『Workrooms』っていう会議アプリをリリースしたので、ちょっと試してみることにしたんです。『Workrooms』は音の立体感がリアルで、隣にいる人の声は近く、遠くにいる人の声は遠くに聞こえる立体音響のような空間になっていました。ホワイトボードに書きながら話したりするのもすごくリアルで。現実の会議室もそもそもリアルじゃない、というか作り物のような感じなのでVRとの違いもあまり感じなくて。その体験からVRChatや個人のクリエイターが作成したコンテンツを見に行くようになったんです。

トバログさん:YouTubeでは、動画で「やりたいな」って思うことはもう誰かがやっていることが多くて、当時はいかに『トバログ』として個性を出すかを悩んでいた時でした。動画のルームツアーなんかもVR空間だったら実際に視聴者にも来てもらえるし、リアルなサイズ感や普段の作業場所もわかりやすく伝わるから「じゃあ自分で作ってみよう」と思い立ったのが最初です。VRそのものと、クリエイターもまだほとんどいなかったので他の人がやっていないことができる、この2点がすごく面白いなと思って始めました。

鎌田:YouTuberの枠を超えてきてるから、すごいよね(笑)。


リアルオフィスをそのままVR空間へ

——VRオフィスの制作はどのように進めましたか?進めていく上で、苦労したことはありますか?

鎌田:まずは実際のオフィスの間取りをモデリングするところから始めました。iPhoneのLiDARセンサーを使用し、物件内をスキャンし、平面図とスキャンデータを元に整合性を合わせながらモデルを作っていきます。そこからBlenderで壁や床の形を整えて、家具を作っていって。そのデータをUnityへ持っていくことでVRオフィスが作れるんですが、BlenderからUnityにデータを橋渡しする最適な方法を探すのには苦労しました。

鎌田:そのままUnityにデータを持っていく簡単なやり方もあるんですけど、その場合はクオリティが大幅に落ちるんです。Blenderではリアルな質感なのに、Unityだと3D出始めの頃のゲームのような感じになっちゃって。最終的には、Blenderでレンダリングした光や陰影、質感を1枚の画像として描き出す工程(ベイク)を追加することで、Unityでも綺麗に見えるようになりました。モデリングより作業時間がかかることになりましたけど、データを軽量化しつつリアルな描写に近づいたと思います。

【画面左下】家具の光や陰影を書き出した画像

トバログさん:そこが鎌田さんのデザイナーらしいところだと思っていて、今VRでワールド作っている人は表現についてそこまで拘らないことが多いんです。今回のように空間として魅せる場合で、デザイナー視点もありつつ、リアルさを追求するっていうのはすごく大変だったと思う。

鎌田:本当はもっとフォトリアルを追求したかったんですけどね。今のも悪くないんですけど......まだ少し昔のゲーム感があって、そこまでリアルじゃないんですよ。Blender上で見るとめっちゃリアルなんですけどね。これ以上表現を突き詰めると、ゲームを作っている人たちじゃないと分からないレベルになってくるんじゃないかなって思ってます。

トバログさん:いろいろ見ていくとリアルな質感を実現できるツールもちゃんとあったりするんですけど、ゲーム業界寄りのコアな話になっていくし、VR向けとなると容量を軽くしないといけない壁もあって。現状はやっぱり難しそうだよね。

鎌田:これからVR自体の技術が発展していけば、もっとリアルに近づいていくと思うんですよね。Unityも進化するだろうし、Unreal Engineもきてるしね。

トバログさん:いっぱい作っていくうちにレベルアップしていって、すごいことになるかもしれないね。VRも極めていけば数年で、表現・処理ともにレベルが高くなっていくと思います。

——VRオフィス制作で、逆にここは上手くいったなと思うポイントは?

鎌田:当初は利用するプラットフォームがVRChatの想定だったんですけど、公開予定の1ヶ月前にclusterに変えたことです。あのままVRChat上でやる想定で進めていたら、技術的ハードルと公開条件などを満たせず、20周年には間に合わなかったと思います。日本発のメタバース系サービスのclusterであれば、日本語の情報もWeb上に転がってましたし、制作期間が残り1ヶ月でも間に合いました。検証もスマホから気軽にできるので、デバッグするのも楽だったし......その判断が自分なりに正解だったと思っています。VRオフィスを公開するなら、20周年企画に合わせたかったので。

あとは時間に余裕ができたことで、本来想定していなかった広島オフィスやPC画面の埋め込みができました。実はオフィスの窓から外に出ることができて、屋上に上がれたりもします。多少のゲーム性を仕込んでいて、遊び要素があるこだわりの点なんですけど、これも時間がなかったらできなかったと思います。

トバログさん:屋上に行くのは結構難しかった(笑)。
僕は実際のオフィスには今日初めて来たんですけど、初めてきた感じが全然しないです(笑)。部屋や家具のサイズ感がVRオフィスと同じなので、びっくりしました。画像を見ただけとは違う「来たことある!」っていう感覚になるのがVRのいいところですね。

“えたじまサイト”から屋上へ上がれる隠し要素があります


VR空間のブランディングを見据えて

——VRオフィス制作を終えて、次に作りたいVR空間はありますか?

鎌田:もちろんありますよ!VRオフィスは、これからXR領域にAppleなども参入してくるだろうと見込んでのリリースでした。Appleのような企業が参入して今よりクリエイターが増えた時に、僕らはすでに実績がある状態でいなければいけないと考えていたんです。
なので空間は今後もどんどん増やしていく予定ですし、ワールドはこれからもひっそりと作り続けますね。次にチャレンジする空間はもう考えていて、近いうちに公開したいと思っています。

トバログさん:いいね!現状の開発はWindowsユーザーがメインだけど、AppleがVRゴーグルを出せばMacユーザーも増えていくよね。

鎌田:今はゲーマーやエンジニア系の人が多くて、一般ユーザーが少ないんですよね。そこにiPhoneやApple Watchのような最初は「誰が買うんだ?」みたいなVRゴーグルを出したとして、その1〜2年後にはみんなが買っているっていう状況になるんじゃないかなって思っています。

トバログさん:そうなれば、デザイナーの人も増えるだろうしね。そこで、シフトブレインの鎌田さんがもうすでにやってますねってなるといいよね。

鎌田:そうなると、VR空間のブランディングっていう仕事が流行るんじゃないかとも思っていて。

トバログさん:間違いないと思う。仮想空間のUIにはまだ発展途上感があるんですよね。ボタンも真四角で押せればいいような最低限のものが多くて、押した時のギミックもないんですけど......それがWebの人たちが入ってきてどんな風に変わるのかが楽しみです。

鎌田:AppleがXR領域に入ったらおしゃれなインターフェースにすると思うから、その需要も絶対に高まると思う。でも、UIの作り込み以外もまだハードルはたくさんあるよね。ゴーグルだって、XREAL Airみたいに小さくて軽い方がいい。Appleはその辺を妥協なしで開発しているから、なかなか発売されないんだろうね。

ARグラス『XREAL Air』
サングラス感覚で着用し、動画視聴やゲームプレイができるデバイスです

トバログさん:もしAppleからゴーグルが発売されたとしても、スペック的に現状のものから大きく変わることはないかもしれない。だけど、Appleが発売することと、それを機にUI/UXが今より良くなることで、多くの人にとってVRが身近になると思うから、僕はそこに期待をしています。

あと、個人的にはVRChatでもVRオフィスを作ってほしいなって思ってます。VRChatでは、PCと接続すればVRオフィス上で自分のPC画面を出して作業ができるようになるんです。隣で作業しながら会話もできるから、よりリアルなオフィスとして使えそうだなって。

鎌田:PC画面の出力にはSteamが必要なんだけど、その機能は今はWindowsのみでMacでは利用できないんですよね。性能不足もあるけど、そもそも互換性がない。それで自分は最近Windowsを買いました(笑)。

トバログさん:本来の機能としてもリアルなオフィスに近づいていってるから、1回VR上で一緒に作業してみよう。海外にいるHeoさんも繋いで!別々の場所にいても、VRオフィスでは目の前で一緒に仕事ができるのがいいよね。

※期間限定でオーストラリアに移住していたInteractive DeveloperのHeoさんとトバログさんは偶然オーストラリアですれ違い、鎌田さんの仲介でオーストラリアでお茶をしたそうです。Heoさんの移住生活については、別の記事で紹介していますので、あわせてご覧ください!👇


この先、VRはどう進化する?

——VR空間が現実の空間に近づいていく可能性のほかに、VRは今後どのように進化していくと考えますか?

鎌田:これは確信があって、僕は教育だと思います。例えば、ゴーグルをかけるだけで憧れているミュージシャンから直々にギターを教えてもらえたり、憧れのマジシャンの手元が好きな角度から見れてマジックの練習ができたり......今とはまた違った教材系のコンテンツが増えるんだろうなと予想します。

トバログさん:英会話みたいな言語系はもうVRのアプリであるよ。今後、OpenAIのChatGPTとかが組み込まれたら、リアルタイムに他言語の練習がVRでいけちゃいそう。ピアノの練習は、VRに限らずMRでもあった気がするな。

鎌田:2〜3年先くらいには、そういうのがもっと増えそう。

トバログさん:今の流れだと、VR、ARって個々に分かれているというより、複合的にXRっていわれる方に進んでいるから、もしかして5年後にはVRっていう区別がなくなるかもしれない。全てをひとくくりで表す新しいワードも出てきてそうです。

トバログさん:個人的には作業環境を整えるのが昔から好きなので、その方向にすごく興味があります。
今後、OSの壁がなくなれば現実と同じようにVRオフィスで会議や仕事ができるようになる。みんなたくさんのPC画面を並べていて、立体的なデモを目の前で見たり動かしたりできる。そういう未来はもうすぐきそうな気がしていて。そうなれば現実のデスクは小さくていいし、キーボードとマウス、ゴーグル以外は何もなくていい。ゴーグルをつけると、PC画面やGoogleカレンダーもAPIで共有されていて、気持ちよく操作できる......VRが流行ればツールも色々対応するだろうし、そういう未来がきてほしいです(笑)! VR空間もホームページみたいにみんなが自分のホームワールド持ってる感じになったらいいなって思っています。

鎌田:もしかしたら、ゴーグルもメガネ型じゃないかもしれないよね。身につけるんじゃなくて、プロジェクターみたいに空間に置くだけで、みんなが見える状態になったり。ホログラム技術が一般的になれば、そんな未来もあるかもしれない。

トバログさん:ドラえもんみたいな感じで、ありえそうだね。レスポンシブの1つになりそう。

鎌田:PC、スマホ、タブレット、VR対応みたいな流れ、来るかもしれないよね(笑)。

トバログさん:今はECサイトでそういった事例があるんですけど......ECよりギャラリーとか家具店の方が合いそうかも。今でもやろうと思えばできるけど、商品とかも3Dモデルを自分で1から作らないといけないから、そこのハードルはすごく高い。でも、あとちょっとしたら簡単にできるようになるとも思います。

メタバース空間と現実がシームレスになる未来も近いかもしれません!

鎌田:今は、VRプラットフォームでVR上で使う家具を作って売っている人が沢山いて盛り上がっています。まさに出来立てのApp Storeみたいな感じなんで、そこに出している人たちは数年先にレジェンドになるわけですよね。今こそ家具とか物を3Dモデリングして、Unityで動くようなアイテムを作るにはいいタイミングな気もします。

デジタルブランドのRTFKT(アーティファクト)は、VR空間で履けるNFTスニーカーを作っていて、いろんなブランドとコラボしてるんだけど、NFTスニーカーをリアルプロダクトとして再現するサービスもやっています。現実と仮想空間が連動してる世の中がもうすぐそこまできていると思う。

トバログさん:Fortniteはもうそんな感じになってるよね。

鎌田:ライブやってたりしてるもんね、使い方が完全にメタバース。VRが一般的になればいつかみんながカフェとかで普通にVRゴーグルをつけているようになるのかもしれないね.......想像するとちょっと怖いけど(笑)。

トバログさん、ありがとうございました!


おわりに

対談内でおふたりが待望していたAppleのデバイスですが、6/6に行われたWWDC23にて『Apple Vision Pro』として発表されました!

発表では『Apple Vision Pro』を“空間コンピューター”と称していて、トバログさんがお話されていた「全てをひとくくりで表す新しいワード」が誕生する可能性も感じられました。
『Apple Vision Pro』の発売は2024年で、手にできるのはまだ少し先となりますが、今後のXR領域の発展が楽しみです!


🏢💁‍♀️VR officeはこちら

鎌田さんが制作したシフトブレインのVRオフィスは、clusterで公開されています。東京オフィスと、広島のサテライトオフィス『えたじまサイト』も体験いただけるVR空間です。
VRゴーグルをお持ちでなくても、clusterのアカウントがあれば入室できます。このnoteで、興味をお持ちいただけた方は是非遊びにきてくださいね!


▼SHIFTBRAIN GOODS STORE
シフトブレインのグッズを取り扱うネットストアをオープンしました!今年発表した20th記念グッズをはじめ、これまで制作した15th記念Tシャツや、みさとと。グッズ、INVENTORYなどがラインナップとして登場しています。これからも新製品を開発していきますので、お楽しみに!

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