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IT古典良書を読み解く《第7回》「アジャイルで幸せになれるのか」

初めてのアジャイル開発 〜その2〜「アジャイルで幸せになれるのか」

アジャイルは誇大広告か

こんにちは。スクラムマスターの伊藤です。

「地獄を通り抜けようとするなら、進み続けることだ」
            - サー・ウィンストン・チャーチル

今回の名言は「第5章 導入理由」からの引用になります。アジャイルは誇大広告という話があります。以前からある考え方(反復型など)を誇大広告して再利用しているだけなのではという問いに、本書では「YESでもありNOでもある (P.40)」と書かれています。

どういうことかというと、いわゆるアジャイルな考え方は、ひと昔前の再利用であるためYESだが、スクラムなどの原則やプラティクスを全体としてみると新しいものなのでNOということです。

ここで学べることはアジャイルをバズワードのように用いると、いわゆる「なんちゃってアジャイル」となり「話が違うじゃないか」と、まさに誇大広告になってしまい誰も幸せになれない結果になります。(そそのかしたコンサルは幸せになるケースあり)正しくアジャイルを用いることで、誰もが幸せになれる可能性があがるということです。

今回はアジャイルの代表的な手法である「スクラム」に関する用語が出てきますので、用語の意味を学んでおくとより分かりやすいですが、知らなくても考え方は伝わるかと思います。

《よもやま話》
誇大広告といえば個人的には「ビッグデータ」を思い出します。バズワード化した時期に導入して、効果をあげた企業が一体何社あるのか… 「M2M」がいつの間にか「IoT」と言葉を変えて領域を増やしたりと、IT業界は不思議な用語が飛び交います。

アジャイルを導入する主な理由

前回の最後に「じゃあ、アジャイルにはどんなメリットがあるの?」との質問にどう答えるかとありましたが、ここで「第5章 導入理由(P.62)」にあるアジャイル導入理由の見出しをみていきましょう。

反復型開発の方がリスクが低く、ウォーターフォール型の方がリスクが高い
→ 前回も触れたが、リスクが高い工程が先に来るのがアジャイル、後に来るのがウォーターフォールとなっていますリスクグラフを見ると分かりやすいです。

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初期におけるリスクの軽減と発見
早い段階で変化を引き起こしてそれに対応できる。それは新製品開発と同じである
複雑さに対処できる
早い段階で繰り返し成功することで得られる自信と満足
 早期の部分的な製品化
適切な進捗管理と優れた予測性
→ これは進捗を測るものが、テストされた動くソフトウェアである点です
 高い品質、少ない欠陥
 最終製品がクライアントの真の希望に適ったものになる
→ 早い段階で評価やフィードバックを繰り返すため、製品が望んだものになる可能性が高くなります
 早い段階からの定期的なプロセス改善
 コミュニケーションと参加が必要
 IKIWISIが要求される
→ これは何という感じですが、「見たらわかる」(I’ll Know It When I See It)の略です。アジャイルでは見て分かることが重要視され、それが結果として優れた製品開発につながっていきます。
 タイムボックスの利点
→ アジャイルは短い期間で区切って開発をするのですが、調査によるとタイムボックスを導入するだけで生産性が上がるという利点があるそうです。いくつか理由があるそうですが1つ目は「集中」。締め切りギリギリのときに驚くべき生産性を出す方も多いでしょうが。締切が長いと人はだらけてしまうようです。また、タスクを現実的に対処できる程度のものに縮小し、困難な決定を早く行うようになる効果があるようです。

そして、もう一つのタイムボックスの価値は、人間の不思議な習性に関連するとのことです。それは「人は期限を守れなかったことはよく覚えているが、内容が少しぐらい不足していても気にはしない」というものです。100%を要求するウォーターフォールと、優先順位が高い機能から作成し75%でも納期にリリースできるアジャイルを表しているようです。

《よもやま話》
懸命なる読者は、よもや話から《よもやま話》に前回から変更されていることにお気づきでしょう。はい。誤字でした。失礼しました。言いたいことは2020年11月現在 「よもや」で検索すると「よもやよもやだ」ばかりヒットするということです。アニメは見たけど映画を見てないので、ついて行けない筆者より。

アジャイルを使って失敗する方法

いざ、アジャイル開発を始めても失敗することはあります。それでは、どうすると失敗するのか、を知っておけば事前に防げるかも知れません。
ここでは代表的なアジャイル手法であるスクラムが失敗する方法をみてみましょう。(第7章 スクラム P.155)

自律的なチームでない。マネージャーまたはスクラムマスターを指揮・編成している
メンバーまたは日時追跡担当者(トラッカー)によってスプリントバックログが毎日更新されていない
スプリントや個人に対して新しい作業が追加される
プロダクトオーナーが参加していない、あるいは判断を下していない
スプリントレビューを行っていない
船頭が多すぎる
→ 決めることが出来るのは、たった一人プロダクトオーナーです。
ドキュメントが不十分である
→ アジャイル開発はドキュメントを作らなくていいという話を聞いた方も多いかと思いますが、反文章主義ではなく、成果物として定義していないだけであり、価値があるのであれば作成するべきです。これは下記の設計や図にも当てはまります。
設計や図の作成が不十分である
顧客および経営陣を含むチーム全員がスクラムとその価値について要点を知らされていない
スクラムミーティングが長すぎる、あるいは焦点が絞られていない
スプリントの最後に、部分的な製品の統合およびテストを行っていない
各スプリントの最後に必ず製品リリースが作成される
→ 製品リリースができあがることもあるが、必ずしもそうでなくてよいとのことです。
予測型計画、PERT図を使った計画
→ 最近、PERT図を書く機会は減っていると思いますが、スクラムは優先順位や期間が厳密なPERT図と相反するため使用禁止になっています。

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PERT図(アローダイアグラム)

まとめると以下のチェックリストになるそうです!(P.158)

■マネージャーやスクラムマスターが、これから何をすべきか、問題をどのように解決すべきかをチームに指示しなければならないと考えている
 ・顧客(プロダクトオーナー)が
 ・スプリントに参加しない
 ・要求の優先順位を決定しない
 ・デモに参加しない
 ・次回のスプリントの内容を、ビジネス上最も価値が高いものという基準から決定していない
■ スプリント期間中でも、チームメンバーに対して新しい要求や余分なタスクを追加で依頼している
■マネージャーやスクラムマスターが、プロジェクトのスプリントの回数と内容を詳細に定めた計画を立てており、チームをその計画に従わせることができると考えている
■タスクの依存関係、実施順序、見積もり作業期間についてPERT図や計画書を作成している

既にアジャイル開発を行っている方もいると思いますが、チェックが0だった方! おめでとうございます! 「アジャイルで幸せになれる」を体現できるはずです。チェックが3つ以上の方、既にさまざまな歪が起きていると思いますが、勇気を持って変革していきましょう。

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莫邪の剣も持ち手による

「莫邪の剣(ばくやのつるぎ)も持ち手による」という言葉がありますが、どんなに優れた名刀でも持ち手が臆病であったりすると、その真価が発揮できないという意味になります。アジャイルは確かに優れた武器ですが、使い方を誤るとその真価が発揮できません。これは、さまざまなことに言えますが、結果が出ないからと次々とサービスや商品を乗り換える方もいますが、使う側に問題があるというのは往々にしてあることです。結論としては「アジャイルで幸せになれるが、持ち手による」ということでしょう。

最後に、スクラムが成功する価値について本書に書かれていることを紹介します。良い持ち手になりましょう。(第7章 スクラム P.153 一部の用語を分かりやすいよう現代風に改めています)

コミットすること

スクラムチームは、そのスプリントの目標を達成することをコミットする代わりに、達成するにはどうするのが一番よいかを自分たちで判断する権限と自治権が与えられる。経営陣とスクラムマスターは、スプリントに新しい作業を追加しないこと、チームに指図しないこと、リソースを提供し日次スクラムミーティングで挙げられた障害を迅速に取り除くことをコミットする。プロダクトオーナーは、プロダクトバックログを定義して、その優先順位を付け、次のスプリントの目標を選択するのに際してチームを導き、各スプリントの結果をレビューしてフィードバックすることをコミットする。

集中すること

スクラムチームは、気を散らさずに決められたスプリントの目標に集中できなければならない。そのため、経営陣とスクラムマスターは、チームにリソースを提供すること、障害を取り除くこと、新たな作業依頼を追加してチームの作業を中断しないように心がけることに注力する。

オープンであること

プロダクトバックログをオープンにしてアクセスしやすくすることで、作業と優先順位が見えるようになる。日次スクラムによって、チーム全体およびメンバー個人の状況とコミットメントが直にわかるようになる。バーンダウンチャートを作成することで、作業の傾向と速度が見えるようになる。

敬意を払うこと

または責任転嫁するのではなく、チームで責任を持つこと。チームのメンバーがそれぞれの長所/短所に敬意を払い、スプリントが失敗しても誰か一人の責任にしない。マネージャーではなくチーム全体が、自己組織化と自律によって、グループで解決策を調べて「個人の」問題を解決するという姿勢をとる。また、専門のコンサルタントを雇って足りない知識を補うなどといった難問に対応するための権限とリソースを与えられる。

勇気を出すこと

経営陣は、勇気を持って、適用型の計画や方向性を示し、メンバー個人やチームを信用してスプリントを行う方法に口出ししないようにする。チームは自主性と自己管理を必要とする仕事に勇気をもってあたる。

最終的に、アジャイルを成功させるには、集中する、敬意を払う、勇気を出すといった、技術ではなくマインドが大事なんだなということを再認識するとともに、IT業界に○○信者や○○教といった言葉がはびこっている理由もなんとなく分かってしまいました。アジャイル開発をしていない人にも敬意を払いましょう!

《よもやま話》
「莫邪の剣も持ち手による」ということわざは、「宝の持ち腐れ」ではしっくりこないので武器は良くても使う人がダメだと効果が発揮できないということわざは無いかなと探したところぴったりのものを見つけた次第で筆者も初めて使いました。

執筆者プロフィール:伊藤 慶紀
大手SIerにて業務用アプリケーションの開発に従事。
ウォーターフォールは何故炎上するのか疑問を感じ、アジャイルに目覚め、
一時期、休職してアメリカに語学留学。
Facebookの勢いを目の当たりにしたのち、帰国後、クラウド関連のサービス・プロダクト企画・立ち上げを行う。
その後、ベンチャーに転職し、個人向けアプリ・WebサービスのPM、社内システム刷新など様々なプロジェクト経験を経てSHIFTに入社。
趣味は将棋、ドライブ、ラーメン、読書など

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