みんな本当は「万歳」したい(即位礼の盛り上がりと小さな物語の疲弊、『月に吠えらんねえ』)
【要約】
今の世の中は確実に右化(既存の帰属集団への依存、賛美傾向)している。
しかしそれは避けられない。
なぜなら私たちは、疲れているからだ。
即位礼正殿の儀、盛り上がりましたね。
そして昨夜は国民祝賀行事、今日はついに祝賀パレード。旗と提灯を持って、みんなで万歳!! と叫べば、日本への帰属意識による一体感と高揚とでテンションはMAX、感涙。
というわけで昨今、「日本人でよかった」「日本を感じる」等の言説が散見されます。
初めに断りますが、私はライト皇室ファンです。好き。けれど同時に大学で学び、オマケに大学院にまで行き、理性と教養と文学を愛し、集団イデオロギーを嫌悪する風土で過ごしてきました。
なのでテレビの街頭インタビューや、Twitterなどで上記のような「根拠はないけど日本素晴らしい! 万歳!」という思考は、なるほどこれが右化ってやつね。と私の中の理性が冷めた目でみています。
でもねえ。同時に私も叫びたいんです。
だって絶対楽しい。何も考えず、集団の熱に一体化する開放感。類似のものは沢山あります。
つい先日まで行われていたラグビーワールドカップだとか、この季節に多い学園祭だとか。好きなアーティストやアイドルのライブやイベント、コミケも。私が所属するカトリック教会も同じです。ミサなんて山風のライブですからね。(『聖☆おにいさん』参照)
愛国心、愛校心、信仰心。これを為政者の管理プログラムと断じることは容易いですが、しかし根本は。人間が1人で生きていけないから作った、大きな帰属場所です。
そう、寂しいんだよ。不安なんだよ。
ポストモダンの現在、飽き飽きするほど引用されてきたリオタールの「大きな物語・小さな物語」の話を、めげずにまた考えましょう。
私たちは戦後からこのかた、理性が正しいと、平等が正しいと、多様性が正しいという一種の共同幻覚を見てきたわけです。(なぜ幻想かというと、これらの理念が正しいということさえ誰も証明できないからです)
そうすると、巨大イデオロギーを含む「大きな物語」は、リスクヘッジとして追いやられます。簡単に言うと、愛国心を初めとする大きな帰属場所は解体され、分散されます。
代わりに人間は各人「小さな物語」を模索するわけです。結果、本屋に『ポムポムプリンの『パンセ』』なんかが並ぶ。(※ポムパンセを批判しているわけでは毛頭なく、このような自己啓発本がおびただしく並ぶ現状を描写したかった)
こうやって理性で自分の物語をカスタマイズしていく生活…………疲れない?
私は疲れました。だから、宗教なんて私の理性からすると大矛盾なのに、入っちゃった。自己洗脳を選択したわけです。
そんな不良信徒生活はやっぱり「ごくり。ここもミサイル打たないだけの北〇鮮と変わらないな」とドン引きすることもしばしば。でも楽しいです。無条件で感動し、帰る場所というのが設定されているから。しかも感動させる装置が2000年耐えた強度を持っているので、うかうかしているとすぐ完全洗脳されます。あはは、このまま理性をなくしてやろうか?
話がそれましたが、寂しいから集まる。集まるから愛を叫ぶ。共感を歌う。これって人間の、そして文学の基本なんですよね。
だから神への愛を歌う言葉は美しいし、愛国を歌う言葉も美しいのです。簡単に言うと、エモいんです。
なぜなら文学の基本は共感だから。誰かに何かを伝えたいんだもん。叫びたいんだもん。
そこで私は『月に吠えらんねえ』を思い出しちゃいます。
なぜなら月吠えはまさにこの上記の矛盾を描いてくれているのです。
月吠えは「大政翼賛」「愛国」「戦争歌」をテーマに、これら現在の理性では「不適当」とされる文学を、果たして無視したままで良いのか? と問題提起します。
俺たちの歌は、自然を、共感を、愛国を歌うところから始まったのに。その根源を無視したままで良いのか? という。
理性の近代によって到来した「近代文学」。しかしそれは文学である限り、前近代的な帰属への愛情を避けられない。この矛盾の甚だしいことよ……!
そして月吠えは、その答えを最後まで出していないように思われます。
だからこそ、純文学だな月吠えは……と思うのですが。
(参照純文学と大衆小説の狭間 - 三室山 http://longtian122.hatenablog.com/entry/2017/12/01/155415 続 純文学と大衆小説の狭間 - 三室山 http://longtian122.hatenablog.com/entry/2017/12/12/095754)
うーん、ちゃんと感想書きたいな。
長くなりましたが、簡単に言うと。
今の世の中は確実に右化(既存の帰属集団への依存、賛美傾向)している。
しかしそれは避けられない。
なぜなら私たちは、疲れているからだ。
月に吠えらんねえ(1) (アフタヌーンコミックス) 講談社 https://www.amazon.co.jp/dp/B00JXGULHY/ref=cm_sw_r_sms_awdb_c_gi4XDbDVYHRK2