定年教師の独り言Vol.8 「ほんのちょっとだけ…」
最後の勤務校から、卒業式の案内が届いた。当日、たまたま仕事が休みだったので、迷いはしたが出席することにした。およそ1年ぶりの学校だ。
玄関に入るなり、卒業生と遭遇した。「あっ城田先生やん!」声を上げた子は、去年まで関わり続けた子だ。授業に集中できず教室を抜け出してしまう。勝手に空き教室に入り込み、好き放題を繰り返していた子の一人だ。
「卒業おめでとう」そう声をかけると、「ありがとうございます!」と、返ってきた。その、子どもらしい素直な表情で、自分が学校を離れたのち、この子にとって良い出会い、関わりがあったことが分かった。
式は、コロナ禍を経験したことで多少スリム化されてはいたが、荘厳な雰囲気のもと進行された。あんなに手こずった子たちも、落ち着いた態度で参加できている。その姿を遠目に見ながら、自分はこの子たちに何を残せたのだろうと自問した。
教師にとって「指導」は本分だ。しかし子どもによっては(時には親も含め)、これがとても難しい。うまくいかないことが続くうちに、つい感情的に対応してしまうことがある。そんな時、ある男児の言葉に、ハッとさせられた。
前述の子と同じように目の離せない子だったが、「先生たちから怒られても、全然怖くない。」という。じゃあ誰が怖いかというと、母親だそうだ。
「俺の母ちゃん、いつもはめっちゃ優しい。その分怒ったらめっちゃ怖い。」この子は、大人を見ている。
いつもガミガミの大人には、そのうち慣れてしまう。いつもは優しい人が鬼の形相になった時、その本気度と、自分のしでかしたことの大きさに気づくのだ。
式の終盤。校歌を歌う子どもたち。ここ数年は、声も出せず、CDに合わせ口パクのようにしか歌えなかった。涙ながらに歌うあの子達を見ながら、色々あったけれど、6年間の出口で、これほどの素直な表情で卒業をさせてくれた現担任や管理職、関わってくれた全ての先生方に心から感謝した。大変な時もあっただろうが、きっと、ガミガミだけでなく、本気で正面から向き合ってくださったのだろう。出会いって、本当に大切だ。
式の終了後、直ぐに失礼するつもりだったが、HR後の見送りまで残らせていただくことになった。現役ではないので多少居心地が悪かったが、これまで関わった者の一人としての、校長先生の配慮に甘えた。自分の時にはまだ結果は出なかったけれど、この子たちの成長にに、少しは役に立てただろうか。チームの一人としてバトンを繋げたかな?歓声の中旅立っていく子たちを見送りながら、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、現場が羨ましく思えた。ほんのちょっとだけ…。
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