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ホーマックおじさん
「休日は何をしていらっしゃいますか」と聞かれれば、「ホーマックで座っています」と答えていた。ホーマックとはかつての東北のホームセンターである。
「あなたのまち〜へ〜、暮らしのなか〜で〜」という店内BGが大好きで、それを聴くために一日中店内のアウトドア用折りたたみチェアに座って過ごすのだ。こういう奴が将来、ホーマックおじさんなどとあだ名をつけられ、近所の高校生から遠巻きに眺められるのだろうなと思った。
ホーマックおじさんがいるということは、ホーマック少女もいるのだ。彼女は生まれつき家のない子であり、ホームセンターに行けば自分の家を見つけられると思ってやってきたのである。今もここに暮らしているということはそういうことなのだけれど、彼女と私は、血の繋がりもないが、ひとつ屋根の下、ホームセンターで暮らしていた。木材の匂いが立ち込める、ここだけが私たちのホームだったのだ。
ホーマック少女は言った。「おじいさんはどうしてここにいるの」私はおじいさんという歳ではないと反論した。少女は笑った。花のような笑顔だった。あぁ、この子の母親と父親の両方になりたい。彼女と私はしばらく笑っていた。
気がつけば、ホーマックはDCMに改名されていた。もうこの世にホーマックはひとつもないのだ。必然的に、ホーマック少女も消えていた。あのBGMはもう聴けないし、私は88歳になっていた。だから、おじいさんだったのか。
私は変わらないはずなのに、街並みは新しくなるから、相対的に私が古くなったように錯覚する。少女はいま、ホームにたどり着けたのかしら。私はアウトドア用折りたたみチェアに抱かれながら、ゆっくりと目を閉じた。
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