「花をささげる」(髙塚謙太郎著『sound&color』より)

庭のひろがりをゆびでひろげて
みえてくる束をなぞるゆびをひらき
いちめんのにおいやかなこえを
ゆびさきでちらしてみる
まるでおしゃべりしているように
あなたのとなりでじっとしていた
もう春もちかいし
すぎゆくものもとけてゆく
しらないものはゆくえににてくる
いくにんかのゆくえ
そうしてなりゆきをおもい
生きていることをおもい
ふたりはとっくにみえなくなって
まぶしいひろがりをまっているわけでもなく
ゆびをからめ
春のひとときにこがれる目で
いっしょにすごしていたとたずね
束ねていくうちに
ひろがるもののにおい
はなれゆくもののにおいをもとめても
いちめんのみえるものがすぎゆく
ふたりのころをつれ去って
花をささげもっているわたしのゆびさきを
切りおとしてみなさいくらいのはやさで



髙塚謙太郎『sound&color』収録
発行:七月堂

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