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山でモツ煮をこぼして気づいた無責任さ

登山に行くたび、山の魅力にどっぷりとハマってしまう僕ですが、今回の登山はまさに「修行」と呼ぶべきものでした。目指すは北アルプスの奥穂高岳、標高3190メートル。ルートは上高地から涸沢を通り、穂高岳山荘へ。朝6時30分に上高地を出発し、お昼過ぎに涸沢カールに到着しました。多くの人はここで一泊して翌日山頂を目指すようですが、僕はどうしても朝焼けを頂上から見たくて、そのまま一気に1200メートルを登り、穂高岳山荘を目指すことにしました。

ザイテングラートと呼ばれる難所から見える山々。たぶん前穂高岳。

18キロメートルを歩いて、もうすでに体力的には限界に近づいていましたが、午前中は天気が良く、北アルプスの雄大な景色を眺めながら気分よく進んでいました。景色が癒してくれるので、少し辛さも和らいだ気がします。しかし、テント場に到着すると状況は一変。天候が急変し、吹きあがる風は台風並みで、稜線に張ったテントはガタガタと音を立てて揺れる。もし「これ、やばいんじゃないか?」と思ったあなた、それは正解です。ここから風との壮絶な戦いが始まったのです。

前回の登山では、山小屋で温かいおでんを食べたのが最高の思い出でした。「次も何か温かいものを食べたいな」と思っていたところ、近所のマイバスケットで見つけたのが、パックに入ったモツ煮。これだ!と即決。重いのは気になりましたが、「山の上で贅沢したいし、まあ良いか」と思いながらザックに詰め込みました。

で、登山当日、ついにそのモツ煮の出番がやってきました。山の下から吹き上げる風が強すぎて、テントはバタバタと唸るような音を立てています。これが寝るときもずっと続くかと思うと、気が滅入りそうでしたが、とりあえず腹が減っていたので、食事の準備を始めました。外で調理なんてできる状態じゃないので、テント内で調理することにしました。もちろん、一酸化炭素中毒にならないよう、換気には注意。風がバタバタしてるので、むしろ強制的に換気されてる気もしましたが。

こぼれる5秒前のモツ煮

モツ煮を温めている最中、ふと「これ、ちょっとマズいかも…」と思ったのもつかの間。次の瞬間、強風に煽られたテントがガタガタと揺れて、あっという間にモツ煮がひっくり返りました。床一面に広がるモツ煮を見て、思わず「ピュターン!」と口走ってしまいます。(これは、留学時代にフランス人がしょっちゅう使っていた、覚えてはいけない汚い言葉です。)

一瞬呆然としましたが、まずは冷静に対処しようと、テントに散らばったモツ煮をゆっくり味わうことにしました。せっかく持ってきたのに、床で無駄にするのはもったいない。ここで登場するのが、持参した七味唐辛子。これを直接振りかけて、さらに山小屋で買ったビールも開けて、もはや酒盛り状態に突入です。もちろん、ビールはまたこぼしたくないので、テントの外に置いておきました。同じ過ちは繰り返しません。ワタクシ、適応能力の高さには自信があります。

床に広がったスープも、どうせなら飲んで片付けてしまおうと思い、そっとすすってみましたが……塩辛すぎて撃沈。さすがにこれは無理だ、と観念して、テントの床に慎重に溝を作るように折りたたみながら、なんとか外へ流し出す作戦に切り替えました。これもまた登山者のスキルアップの一環だ、と自分に言い聞かせつつ。

なんとかモツ煮の残骸を片付け、持参したティッシュで丁寧に拭き取りました。「これで一件落着」と思ったその瞬間、今度はテントの入り口に置いていたビール缶が風に煽られて倒れ、白い泡がテントの入り口にぶわっと溢れ出すという、二度目の惨劇が襲ってきたのです。ま、そうなるよね。ここが精神的な限界地点でした。

ここでふと考えたんです。「自分って普段から無責任だったのかもしれない」と。モツ煮をこぼすのも、ビールを倒すのも、ある程度予測できるリスクだったはずです。風が強い中、地面に安定していないものを置くのは明らかに危険。台座を作るとか、もっとしっかり固定するとか、方法はあったのに、「まあ、大丈夫っしょ」と安易に考えてしまった結果がこれです。

普段の生活であれば、こぼしてもすぐに掃除道具が手に入るし、リカバリーも簡単です。でも登山ではそうはいかない。限られた資源しかない極限の環境、しかもソロ登山、全ての自分の行いが自分に返ってきます。

今回はモツ煮とビールが犠牲になっただけで済みましたが、1つの失敗が命取りになることだってあります。これがもっと重要なものだったら……。そんなことを考えると、ちょっと背筋が寒くなりました。きっと日常生活でも僕はこんなことでミスをやらかして失敗するんだろうなと。

3手先を全パターン予測して行動していかなければ、僕はどこかで大きな失敗をすると。僕は普段から割とリスクを取ることにことにためらいがなく、思いついたことを、後先考えずに「大丈夫っしょ」の精神で行動することが多くあります。それって、失敗してもリカバリーがきくと思ってるか、誰かが後片付けしてくれてたのかもな、そんな自分は無責任だったな、と反省しました。

みんな今までごめんなさい。これから、ときどき気をつけます。

あんまりにつらい登山だったので、モツ煮でも学びに変えてかないとやるせませんわ。

朝の5時に嵐の中、奥穂高岳に登頂しました。高さと風の強さでおよび腰。

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