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忘れないように、色褪せないように - ヨルシカ『花に亡霊』

今日は一本の映画を観た。スタジオコロリドの『泣きたい私は猫をかぶる』である。この映画は、今年4月29日に公開が予定されていたが、コロナの影響により、劇場での公開はせずにNetflixでの配信となった。そして時が経ち、京都市では出町座にて10月9日より公開された。気になっていた映画で、Netflixでも観ることはできるが、せっかくなら映画館で観たかったので足を運んだ。

ちなみに出町座は、いきいきとした出町商店街の中に位置する小さな映画館。新作・旧作問わず、厳選された質の良い映画を上映しているので、京都の映画ファンには言わずと知れた映画館と言えるだろう。カフェも併設されており、空間デザインもとてもオシャレ。

さて、『泣きたい私は猫をかぶる』の主題歌は『花に亡霊』、劇中歌に『夜行』、エンドソングに『嘘月』をヨルシカが手掛けている。『花に亡霊』が主題歌になっていることは知っていたのだが、プラス2曲も聴けて幸せな気分になったぞ。

『花に亡霊』、とてもいい曲だとずっと思っていた。数か月前のこと、夏空のもとで聴いてとてもすがすがしい気持ちになったものだ。ボカロPやネットから有名になるアーティストは、個性的なサウンドでどこか引っかかるような仕掛けがなされていることが多いイメージがある。しかしこの曲を聴いていて思ったのは、「ヨルシカは自分たちらしさを前面に出すという段階から一つも二つも進んだのだな。」ということだ。この飾り気のない爽やかで美しいサウンド、素直な言葉の並び、心にスッと入ってくるn-bunaさんの音とsuisさんの声。一流のアーティストとしての余裕を感じざるを得なかった。

元々好きだった曲だけど、映画を観ると言葉たちがより生きてくる。この映画は、誰しも抱えているものがあるということ、気持ちを伝えるのは恥ずかしくて勇気がいるけれどそうしなければ伝わるはずもないということ、そういう当たり前なことの大切さを教えてくれる。そして今この主題歌を聴くと、主人公のムゲの真っすぐな姿と、自分に正直になれずにいた日之出の優しさを感じる。映画の世界観に自然と馴染むバランスのとり方が絶妙だ。

ヨルシカはボカロ出身、ネット発、若い世代を中心に人気といった紹介をされることがしばしばなので、ポテンシャルが宙に浮いたまま名が広がっているようにも感じる。今や日本の音楽界にとって重要な存在であることは間違いない。たくさんのリスナーはなんとなく聞き流さず、一度立ち止まって、じっくりヨルシカの音楽と向き合ってみてもいいのかもしれない。

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