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『ドラゴン・マッハ!』は最高の映画

『ドラゴン・マッハ!』は最高の映画です。

当たり前のことを言ってしまった。でも何度でも言いたい。『ドラゴン・マッハ!』は最高の映画なので……

 アマプラとかで映画を見るときは、公開時にTwitterのTLでお祭りになっていて、興味を惹かれたけど都合がつかず見れなかった、という作品を見ることが多い。『ドラゴン・マッハ!』もそのひとつで、見たらものすごくいい映画だったので友達にも勧めたくて下書きもなしに書き殴ったのが下記になります。当然ながら以下全て個人の感想です。

Dマッハ

私が思ったいいところはこの通りなんですけど、後日リモート上映会で一緒に見た友達は「待ってこれ、シリアスな映画なの?『ドラゴン・マッハ』っていうタイトルなのに?」と驚いていた。そこだけは誤解してもやむをえないので申し訳なかった。(おそらくトニー・ジャーの大ヒット作が『マッハ!』なので、彼の出演作とわかりやすいようにそういうタイトルがつけられてしまったのではないかと思う)

以下少し詳しく

チャイの光のお父さんぶり

トニー・ジャーが演じる刑務官チャイのお父さんぶり。入院闘病中の娘の前では笑顔で陽気なお父さんとして、娘のサーちゃんに楽しく優しい世界を見せようと努力していて完全に素敵なんだけれど、ひとりバスに乗って帰宅する場面では今にも泣いてしまいそうなデリケートな表情を見せるのが本当に胸に来るというか……トニー・ジャーだから身体能力の高さを見せつけるアクションももちろんすごいんだけど、娘のために力を尽くすけれど、無力感に押し潰されそうになってしまう父親の姿が心に残った。めっちゃいい。

もうひとりの主人公・チーキットのギャップ

ウー・ジンが演じるもうひとりの主人公・チーキットは、前半~中盤、まったくいいところがない。香港の警察官である彼は臓器売買組織に潜入して必死でやってるけど、序盤にヤクに手を出したことを叔父さん(同じ警察官で、チーキットを潜入させた本人)にド詰めされている場面があるし、潜入がバレてハメられ、チーキットが勤めるタイの刑務所に送り込まれて独房で禁断症状に震えている。見せ場であるはずの刑務所大乱闘シーンでも「看守から奪ったスマホで叔父に連絡しようとするけど電波がなくて電波を探すためスマホをかざしてウロウロする」動きをするんだけど、それらの「徹底的に追い込まれた情けねえ姿」の演技がものすごくうまいので、チーキットが本来どんな人なのか、見ている側もチーキットのヤクが抜ける後半にならないとわからない。そのぶん、後半に彼が「自分が正しいと思ったことをする」場面では、刑務所にいた頃にはない瞳の輝き、動きの優雅な美しさ、かっこいいアクションにすごく興奮して「これがチーキットの本来の姿なんだ!」と思った。めっちゃいい。

チャイの娘・サーちゃんの演技がいい

チャイの娘で、白血病を患う8歳の女の子のサーちゃんの演技がすごく自然で素敵だった。スーパーヒーローが好きでマスクをかぶってポーズしたり、表情の作り方とかも「想像上の子供じゃなくてマジの子供」という感じで、自分でドナーに連絡を取ろうとしたり、病気を治す意欲がすごい。一貫して悲劇的な背景としてじゃなく、この子がいる、という感じがした。

おじさんたちがいい

ノワール小説や映画などの潜入捜査ものというと、潜入する者が自分の立場を偽るキツさ、失敗すれば即殺されたり苛烈な拷問を受けるであろう恐怖に並んで、何かあったら簡単に本来の所属組織に切り捨てられてしまう不安がキリキリと描かれるハラハラ感が魅力のひとつだと思うけれど、チーキットを臓器売買組織に潜入させた張本人で実の叔父・チャン刑事は「甥絶対助けるマン」だ。「実際に血が繋がっているから」「チーキットが捕まっているのは自分に責任があるから」とかだけではなく、マジで真剣に、自分がどんなにキツい目にあっても、チーキットを助けることを全然あきらめない。また、チーキットにとってのチャン刑事のように、チャイには年長の同僚コンがいる。一緒に娘サーの面倒を見てくれたり、彼のことを気にかけてくれている、家族のような存在ということが少しずつ描かれる。(チャイ親子と一緒に、おそらくサーのために托鉢僧にお布施をするシーンがあるし、トップ画像に描いたチャン刑事に買収される場面で受け取った金を丸ごとチャイに渡そうとしていた)本来家族やパートナーでない中年男性2人が協力して子育てをしているというのも新鮮に感じたけれど、この映画では「人と人が助け合う」というシーンが大切に描かれているような気がする。なお、私が一番好きなキャラクターはコンおじさん。白髪の坊主頭に眼鏡で、場面によっては厳つくも親しみやすくもなる表情、短いがアクションシーンもあって、「え?この人こんなに動けるの?」と思ったら「酔拳2」のラスボスを演じたこともあるロー・ワイコンさんというアクションスターということを後で知った。(そしてインスタをフォローした)バンコクの中華街でのシーンは、素敵な私服姿も見れる。悪事に協力するワルさはあるけれど、それも全部(かどうかはわからないけれど)チャイとサーのためなのでは、と思わせる、心をかき乱すおじさんだ。

獄長(マックス・チャン)がかっこいい

チャイやチーキットたちとは対照的に、ちょっと見ただけでわかってしまう非人間的な強さ・かっこよさ・邪悪さで私たちを慄かせてくれます。あまり語るところがないくらい、見ればわかるすごさ。クールに徹しているけど、後半に行くにしたがって余裕なくイライラした表情になるところがめっちゃいい。

臓器売買組織のボスとその弟の関係性

潜入捜査ものには、潜入した先のホモソーシャルな絆に絆されてしまったり、またそうではなく特定の人物に心を持っていかれたりすることによって、それをいつか裏切らなきゃいけないという状況で引き起こされる巨大感情が描かれることも割とあると思うけれど、『ドラゴン・マッハ!』の主人公組は「人として、自分が正しいと思ったことをする」と立ち上がりガッシリと握手するアツさはあっても、その手の巨大感情的なエモさはあまり感じなかった。感じるとすれば、センター分けの前髪に丸眼鏡、おしゃれな装いが印象的な臓器売買組織のボス(一緒に見た友達は「坂本龍一」というあだ名で呼んでいた)とその弟の関係のほうだった。力の世界に生き、権力の座についている兄の病を治すために搾取される弟。その弟がクライマックスで兄にかける言葉一発、すぐに消える火花のように彼らの関係のもう一つの側面が照らし出されるあたり、なかなかたまらないものがあります。

臓器売買組織のボスの弟の妻がいい

臓器売買組織のボスの弟さんは分厚い黒いセルフレームの眼鏡、趣味のいい部屋に住むあまり裏社会っぽくないキャラクター造形がすごくいいんだけど、その妻の女性がまた、いい。兄に「自分のために移植用の心臓を差し出せ」と迫られ、高飛びしようと相談する弟に「あなたに何かあったらお兄さんを殺してやる」と口にする。一見いでたちこそLEEの読者モデルのようなこなれた品の良さだが、ゴリゴリの武闘派の女性だ。高飛びのため空港にいるところをジワジワと襲撃されてしまうのだが、雇ったボディガードが(買収や裏切りにより?)働かず、それにキレてボディガードを立て続けに3人ビンタする場面がある。
「なんで働かないのよ!金は払ったでしょ!」すごく印象的なシーンだ。弟の妻はチーキットらの追手との戦闘中にあっけなく討死してしまうけれど、めちゃくちゃインパクトがある。彼女と弟がどのように出会ってどのように結婚したのか、すごく興味がある。

もちろんアクションがめちゃいい

序盤で刑務官であるチャイとヤクの抜けていないチーキットのファーストコンタクトでの格闘シーンがあって、「チャイは刑務官だからって特に説明もなくこんなに強くていいのか」と思った。こんな感じのアクションがこの先いくつかあるんだな、と思ったらそうではなく、ちょっと見たことがないような刑務所全体を挙げての擬似ワンカット大乱闘にワイヤーを駆使したフワ、とした動きが入る不思議な魅力、敵方のナイフの殺し屋のおそろしさを十分に見せつける狭い階段での皆殺しシーン、臓器売買組織が運営する人間解体工場での手斧を使った立ち回りは「おっ、ちょっと韓国ノワールのアクションぽい」と思っていたら車両が突っ込んできてワイスピか、みたいになったり、(トニー・ジャーが大型車両のフロントガラスをおなじみのダブルニーアタックで突き破るシーンもある)、ひとつ一つの要素は馴染みがあるものだけれど、「この映画でしか見たことない」というアクションになっていてすごい。めっちゃいい。


そのほかにも、タイと香港の過去の出来事や今進行中のこと、やや複雑にも思える要素がめちゃくちゃにテンポよく、ものすごく手際良くトトトトンと語られるけれど、ちゃんと見ていれば「わかりにくい」と思うこともなく、とてもリッチな画面で見られるところが「めちゃくちゃ質の良いものを見せてもらってる」感がした。そして、チャイとチーキットの「自分が正しいと思うことをやる」ことが実を結んだラストシーンの後に、「本編、そんな内容でしたっけ?!」というほど勇猛なテーマソング(殺破狼シリーズ全体のテーマソング)が流れるのもすごく味わい深いので、すごくおすすめです。

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