オフィスが学校になった日
6年目に突入したシブヤフォント 。一般社団法人にもなり、去年からオフィスも持つようになった。
そのシブヤフォントが桑沢デザイン研究所で正式に授業になり、そのオフィスでデザインを学ぶ学生に「ソーシャルデザインプロジェクト」の一環でシブヤフォント の作法を伝えている
正直私はここ最近毎週緊張している。
先生一年生。何を喋ったらいいか、どんなものを準備すれば、スライドも作らなきゃ、アクティビティはどうしよう。毎週3時間の授業内容は胃が痛くなり時間が近づくにつれ挙動不審になる。
でも、結局は学生たちと話してて楽しいし毎回刺激を受けるしそれが授業をする上での醍醐味。
これまでの例年のシブヤフォントでの制作は学生がボランティアで参加していたので1施設につき学生1人、それぞれ個別で話をしてデザインなどを進めた。
しかし今年からは少し違い、10の施設に20人の学生。2人1組でアート制作についてのやり方やデザインをいろいろ試行錯誤し進めていく。一回施設へ行ってその次の週は教室であるシブヤフォントのオフィスに行きチームで振り返りながら次の手を考えまた施設へいくの繰り返しをしている。
授業になったからこそ学生たちの経験に加え学びの側面を考えるようになった。もちろんデザインの授業なので教室技術面や構成のお話はする。でもそれ以上に学生の学びになっているのがコミュニケーションの仕方と最近感じるようになった。
自分の感じていることや観点をどうチームメイトの施設の支援員やメンバーにつたえるか?ましてやお話があまりできないメンバーとどうコミュニケーションをとりか?など悩みながら考える学生が多いが毎回話し合いながら何がベストか先生として一緒に考える。
教室はシブヤフォントのオフィス。学生席は毎回違うチーム同士が面合わせで座るようにしていて、冒頭大体30分ほど技術や次の課題や政策ステップを伝えたらあと学生たちを自由にさせている。いわば学生たちを放っておいている。先生!といわれたり、何か困っている様子が長かったらそっと話しかけるがそれ以外は慣用はあまりしない。
そうすると面白いことがおこる。チームの垣根を越えて向かいに座っているチーム(クラスメイト)に意見を聞いたり悩みを相談し合うなど、学生の間で話し合い始める。
5回目の授業、学生の緊張もほぐれ、普段は淡々と沈黙の中スタッフが働いているシブヤフォントのオフィスが一気に教室になった。
「どんな感じ?あ、これおもしろーい」 「そうそう私も今同じことで迷ってる〜」と教室の反対に座ってる友達の所に行って話したり、「そっちのチームはどう?」「わ〜うちらと全然違うね〜」
この光景をみてうれしすぎて胸がいっぱいになったと同時に懐かしくも感じた。
これ、どこかで見たことあるな〜とその景色を見つめる。どこだったけ?
そうだ!グラフィックデザイン学んだイギリスの大学だ!そこはクラスメイトが14人と少なく、課題のたんびに互いに相談し合いながら制作をしていた。先生にもちろん相談するけどクラスメイトもその場で聞けるのは本当に助かった。特に先生の話を聞くのは苦手な私にとっては。でもこれはイギリスの大学でも珍しい光景。普段は100名の生徒がレクチャーを受け、その後は自分の家などで制作をする。対して日本と変わらない。そうしちゃうと結果、制作物の最終段階でしかデザインを判断できない。結果だけを見るといいか悪いしか言えない。でもその人が辿ったプロセスもしれると先生としてもより的確な意見やアドバイスができると私は思ってるし、デザインの受け手の心にも刺さるとも思う。そして何より助けを同期に求めることができる。それが私は大学時代にあってとてもよかった。
実はデザイン教育、いやいろんな教育ので今一番欠けているのが相手に助けを求める・意見を聞く・お願いするというコミュニケーションの構築の仕方を実践する場所なのではないかと思ったりもする。そのコミュニケーションの実践を大いに見せているのがシブヤフォントの授業だとおもった。
みんなスキルが一人前でも、いくらいいデザインができたってそれが相手に共有できなかったりそもそも協働してる相手の視点や思いに寄り添ってなかったら意味がないのだから。そして仕事するということは一人で制作することもあるかもしれないが実は他者と空間を共有しながらすることが多い。
シブヤフォントのチーム内のコミュニケーションを見ても面白い。みんな学年、技術や経験はバラバラなので互いの不得意や得意を補いながら制作を進めている。いろんな職場でもこういう光景がある妥当。だからみんなのコミュニケーション能力が上がるという矯正もしたくない。逆にこの教室内だけでなく、この授業が終わっても、社会人になっても他者に相談しあえる人になってほしいと思った。これ!と言った正解はないのだから。
そんなこんなでまとまりのない文章を書いている先生一年生の私ですが、引き続きシブヤフォントという教室では学生たちには緊張感なく、互いの想いや意見を言える空間を作りたいと思う。そして学生たちが社会へと巣立つ時も他者とそうなれるようになってほしい。そして何より施設のみんなと過ごした日々を時より思い出してほしい。ひきつづき先生としてもそっと寄り添いながら一緒の目線で考えていきたいと思う。
ライラ・カセム
一般社団法人シブヤフォント・アートディレクター
桑沢デザイン研究所「ソーシャリデザインプロジェクト」講師
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?