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”好きなこと”は、すぐそこにある。飯田大貴さんが、アパレルブランドを立ち上げた理由

「ほんとうにこれが自分のやりたかった仕事なんだろうか」
ふとそうやって立ち止まってしまう瞬間がある。もっとなにかに熱中することができれば、もっと楽なのに。
「やりたいこと」というと、僕にはふと思い浮かべる友人がいる。
名門の京都大学を卒業するも、服飾の専門学校に通い直し、現在は個人でアパレルブランドを立ち上げた飯田大貴さん。彼と僕は、中高一貫校の同級生だった。
彼はどうやってやりたいことと出会い、向き合い、人生を選択してきたのだろう。
飯田さんが服を作るアトリエにお邪魔して、お話を伺ってきた。



鴨川沿いで生活するために、京都大学に

2021年9月、28歳でアパレルブランド「No Technique Needed」を立ち上げた。
完全受注生産によるオーダーメイド商品の作成から始まり、現在はメンズのパンツを中心に複数の商品をラインナップ。
大阪にある唯一の村、「千早赤阪村」の山に囲まれた自然豊かなアトリエで、ミシンを使った手作業により日々生産を続けている。

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「独立してやりたいっていうのはずっとあった。あったけど、踏ん切りがつかずに遅くなっちゃった。でも若い時は、そんなふうにスタートできるなんて知らんかったから。商品を一つ作って売ればいいからさ。それで始められるから。まあ今考えると必要な助走やった気もするなぁ」

鴨川沿いのホテルに泊まった高校時代の遠足で、はじめて京都を訪れた。
「親に金銭的な負担をかけずに、ここで生活したい」
それが、国立の京都大学を志した唯一の理由だった。
京都大学文学部を卒業後、鞄を作る工場で働きながら服飾の専門学校に通う。働くまでは、鞄と服の作り方が違うということも知らなかった。
その後知人の紹介という縁もあり、セレクトショップを運営する会社に入社。そこでショップの店員や販売計画に関わる内勤等を経験するも、働き方や現状に違和感を感じ2021年2月に退職した。

「コロナ禍っていうことが自分のことを考えるきっかけにもなって。そのときはちょうど、社内でのアパレル関係以外の仕事も重なって体力的にも辛い時期やった。
退職にはもちろん不安もあったけど、おれは生活水準を下げることに抵抗はなかったから、もうやったれ!みたいな感じかな。周りの環境もあって、ようやく踏ん切りがついた感じ」

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(古民家を改築して作られた飲食店の2Fが彼のアトリエ)

ずいぶん異色な経歴のように見えるけれど、本人にはその異色という視点はない。
それはきっと、いつでも自分の”好き”に正直になっているから。

好きなことをする時間より大切なものなんてない

自分の思考とうまく付き合いながら、感情を大切にする。
いつも彼を動かしているのは、その感情を揺らす衝撃。

「高校生のとき、妹がダンスをやってる影響でYoutubeを観て。そこでブレイクダンスの動画があって、もう見たことない状態になってて、人間が!この状態で逆立ちして回転してる!なにこれ!みたいな」

ダンスにのめり込み、次第に憧れのダンサーたちが身につける服にも興味が移る。古着に触れ、パリコレクションを見て再び衝撃を受け、のめり込む。
そんな”好き”をたくさん抱えて、毎日を過ごしている。
でも、やりたいことや好きなことって、どうやって見つけるんだろう。
筆者がずっと抱えてきた悩みについて聞いてみた。思いのほか時間がかかって、彼から回答が返ってきた。

「そうやな。好きなことって、たとえば海が好き、とか。そういうものってだれにでもあると思う。もちろん熱狂的になるかどうかは別として。なんとなく好きっていうものを、気軽に「好き」って言葉にして言ってる感じかな。
好きなことに意味も無意味もなくて。ただ好きやからやってるだけで、そこから快楽を得てる。」

だからこそ、のめり込む自分がいたときに、その自分を止めることはしない。

「おれはお金稼いで、良い車乗るとか良い家住むとかよりも、好きなことするほうが大事やから。そうやってのめり込んで大量にインプットすると、いろんな方面からの考えとかジャンルを比較できるようになるから、より面白くなる。
大学生のときは映画とか本を学校さぼって大量に見てた。退職した後は働かずにずっとゲームやってる時期もあったし。最近は坂道が好き。旅行に行ったら、ぜったい散歩の時間は取るようにしたり。この前行った東京、坂道多くてめっちゃ良かったよ!」

生産性や世間体。それよりも、自分の好きなこと。自分の感情に素直になって続けることで、ようやく熱狂的な好きが分かる。
周りがリクルートスーツを着て大企業の名前を出し始めたときも、その気持ちは変わらなかった。
そのやりたいことや好きなことは、結果として仕事になるかもしれないし、ならないかもしれない。それは、どっちでもいいことなんだ。

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「ダンスよりも服を選んだのは、仕事としてイメージしやすかったから。ダンスは表現として楽しいけど、勝ちたいとか有名になりたいとかはなかった。自分の内側に入り込んでいく感じで、仕事にしたいとは思わへんかった。もちろん今も好きで続けてるから、好きなこととの関わり方っていろいろあるよな。
ずっとやりたかった独立を実際にして思うのは、働き方はどうだっていいってこと。フリーでも、会社員でも、今のブランドを続けてそこに力を注げるなら」

制約があるからこそ面白い

実際にフリーになってみることで、より”好きなこと”に対する気持ちがハッキリとした。”今の活動”を続けていたい。”好きなこと”を続けていたい。もちろんそれらを続けていくことによる悩みもある。

「やっぱりブランドを作って売っていくっていうのは長い時間がかかるし、その間にライフステージも進んでく。結婚もしたし、そうなると自然に子供を作るかどうかという話にもなる。これまでと違って自分だけの問題じゃなくなったから、すごい葛藤とか悩みはある」

生活という現実的な問題はもちろんある。それでも”好きなこと”を続けるという選択をした。
だからこそ彼は、現実的な問題は現実的に対処する。お金がなければ副業もするし、苦手な宣伝活動も行っている。

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「フリーで仕事してても、作りたいものを作るのか求められているものを作るのかとか。納得いかないものでも、まずは世間に出していかないととか。
もともとはやりたくないことは全然やりたくないタイプやったけど、それじゃ前に進めないから。
そういうたくさんの制限や縛りのなかで、自分になにができるのかって考えるのも好き。それはそれですごい楽しいし、思考がドライブしていく感じがする」

”好きなこと”を追いかける選択をして、悩みにぶち当たる。
生産性や世間体を考えないからこそ、彼の人生はその連続だ。
だからこそ、好きなこととは、そんな葛藤や悩みも含めての好きなことだということを知っている。



彼と話終わると、
なんだか「やりたいことで悩む」という行為自体、とってもおかしなことのように感じた。
趣味でもなんでも、気軽に「好き」だと言葉にする。もう既に僕の周りには、たくさんの”好き”がある。
小さな”好き”を、大切に味わって生きていきたい。

No Technique Needed

https://www.instagram.com/no_technique_needed/



(取材・執筆・写真:シブタニナオキ)


読んでくれてありがとうございます。 この文章が少しでもあなたの人生に寄り添えていたら、嬉しいです。