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【禍話リライト】『パーティーの家』

 かつて田舎に住んでいたAさんが高校生の頃に体験した嫌な思い出の話。

 過疎化も進み、一学年一クラスしかないような高校に通っていたAさん。  

 そのクラスメイトに、その場にいない人が見えたり、しないはずの音が聞こえたりする、といった、いわゆる霊感がある……ような発言をするBさんという女の子がいた。

 特にトラブルにつながったりすることもなく、クラス仲も良く平和だったこともあり、また、変な発言をしないときのBさんは明るい子だったりもしたからか、そんなBさんの不思議ちゃん発言も「またか」といった具合、うまいこと受け入れられていた。

 だが、時々つじつまが合ってしまうこともあり、そんなときAさんらクラスメイトたちは気味悪くなったという。

 ある日の放課後、なかばクラスメイトたちの共有本棚になっていた学級文庫置き場に、コンビニなどで売られているような「おいおい、体験者が死んじゃったらどうやってこの話が伝わったんだよ」みたいな、高校生であれば全然怖くない内容の怪談本が置かれていた。

 Aさんと何人かのクラスメイトは「これだったら俺の知っている話の方が怖い」「話してみてよ」などと談笑していた。

 するとそこへ普段この手の怪談話には混ざって来ないBさんが話に入ってきた。それに普段は少し家が遠いらしく、早く下校していたBさんがこんな時間まで残っているなんて珍しい。Aさんはそうも思った。
 Bさんが口を開く。

「あたしね、ずっと怖い思いをさせられてる家があるんだ~」

 “怖い思いをさせられてる”家? 変な出だしで始まった話を、Aさんたちは聞くことになった。

●●●

 曰く、Bさんの家の近所にはボロボロな廃墟があるという。

 彼女が小学校に入学する前の話だというから、幼稚園児くらいの頃。
 公園で遊んでいたBさんは夕方のチャイムが鳴り、帰らなきゃ、と夕日も沈みかけ薄暗くなった道を歩いていた。

 彼女が住むのは新興住宅地で開発も進み、周りの家も新しい。
 そんな帰り道の途中、
(この家ずっとボロボロだなぁ、人住んでないのかなぁ、怖いなぁ……)
 と、幼心に感じていた一軒の家の前を通り過ぎようとしていた。
 
 だが、あることに気が付いた。その家の窓から明かりが漏れていたのだ。

 おかしな話だった。庭の草はボーボーだし家の壁や門扉には蔦がびっしりと生えている。さらに壊されたのか朽ちたのか、玄関のドアノブが無い。どうやって家の中に入ったのだろう。

 気になった当時のBさんは塀を登って敷地内に入った。幼稚園児である自分の背丈くらいある雑草の中へ着地し、明かりが漏れている窓へ近づいてみた。
 窓は経年劣化なのか元々がそういうものなのか、近づいてみて分かったがガラスには色がついていて、室内の様子は薄くセロファンのフィルターがかけられたようで、中が見え辛い。

 やがて分かり辛いながらも目を凝らすと徐々に見えてきた。
 どうやら客室らしい、大きめのテーブルの上に、安っぽい小さな取っ手の付いたコップ。中には紅茶かなにかお茶であろう液体。
 その近くにはお茶が入っている普段使いするようなポットがある。

 あ、とBさんが気が付く。お茶会だ。アニメで見たことがある。

 テーブルを挟むように3人ずつ、合計で6人の女性が楽しそうに話しているような動きが見えた。
 なぁんだ、この家の人たち、たまに帰って来てたんだ。そう納得したBさんは怖さも薄れ、家に帰った。

 帰宅したBさんが夕食時に両親へ見てきたものを話すと、食事中にも関わらず深刻そうに「あの家で何かあったら町内会長に言わなきゃいけないんだっけ?」「いや○○さんにじゃなかったか?」などと、Bさんをそのまま席を立ち、電話を掛けに行ってしまった。
 Bさんがぽかんとしていると、あわただしい様子の両親と家を出ることになった。

 家を出て少し歩いたBさんとご両親。やがて懐中電灯をもった近所の大人たちがあのボロボロの家に出入りしているのを見た。「誰かいた痕跡は?」「ありません」「そうか……」そんな会話をしている。

 そこからの記憶は少しあいまいだという。

 Bさんは気が付くと車に乗せられている。車窓は真っ暗で、でこぼこした道をタイヤがガタガタ進む感じやヘッドライトに照らされた木々が流れていくことから、どうやら山の中を走っているらしい。
 
 やがて、お寺――というにはBさんが知っているものとは少し違う形の建物の前で車が止まる。
 
 Bさんは親に抱きかかえられ講堂のような襖と畳が何枚もあるような部屋へと連れていかれた。
 襖の奥から着物を着たおばあさんがやってきてBさんの前に座る。何が起こっているかわからないBさんにお経のような呪文のような、何かを唱え始めたという。
 Bさんの記憶では途中で寝ちゃったりもしたから、かなり長い時間だったのではないか。そう記憶している。

 その家についてだが、かつて出入りしていた人が救急車で運ばれる事態となり帰って来ず、それからそのままだという。
 
 Bさんが周りの大人たちから聞いたところによると、マイナーな新興宗教が関係しているらしく、土地も家も権利関係が判断できないため、そのまま残すしかない、というような状況らしい。
 詳しいことを周りの大人たちは語ってくれないし、Bさんがこの話を尋ねると必ず“もう二度と近づいてはいけない”と釘を刺される。

●●●
 
「その家、まだ近所にあるんだ。だからずっと怖い思いをさせられてるの」

 なるほど、だから怖い思いなのか、Aさんはそう納得した。
 それからほどなくして解散する雰囲気となり、不思議な家があるんだね、などと話をしながら下校した。

 次の日。
 Aさんが登校すると、クラスメイトの何人かが暗い顔をしている。全員が昨日の放課後一緒に話していた子たちだった。
 「何かあったの?」昨日の放課後の面子で集まりAさんが聞くと「夢を見たんだ」という。

●●●

 夢の中で四~五歳くらいの女の子に手を引かれて住宅街を歩いている。
 気が付くとあたりはその女の子の背丈くらいある雑草に囲まれていた。

 こっちこっち、と、女の子はいつの間にか手を放して先に行っており、ある家の窓の前に立っている。
 招かれるまま近づき、窓をのぞき込む。うっすら色が付けられた窓の先、家の中では中年の女性が3人ずつテーブルを挟んで6人座っており、その手元には修学旅行先のホテルで見たような安っぽい小さなコップがあり、中年女性たちは楽しそうに話している様子でお茶を飲んでいる。

●●●

 その楽し気な様子を、目が覚めるまで延々と見せられる。
 そんな夢を一緒に話を聞いていたうちの半数がみた、という。
 不思議と夢見ている間は怖くないが、起きた後に「あの家じゃん……」と、恐怖が襲ってきたのも同じ。

 朝のにぎやかな教室なのに、自分たちだけがシン……としてしまった。
 中でもBさんは、今にも泣いてしまうんじゃないかという表情で「あたしがあの話したせいだ……本当にごめん……」と怯えと後悔が入り混じった声で謝罪した。さらに空気が重くなる。

「ま、まぁでもさ、Bちゃんもお祓い? 行ってなんとかなったんだし、大丈夫でしょ!」
 場の空気を変えるためにAさんが明るく努めて言う。すると陰っていたBさんの表情が少し明るくなり、
「そうかもしれない。今日帰ったら親に聞いてみるね!」
 と、夢を見てしまったクラスメイトも「そうだよな」と少し気持ちが回復したようだった。

 夢を見ていないAさんたちも「もしかして今晩見てしまうかもしれない」と、上の空のまま授業が終わった。

 放課後になると、いつもは教室に残ってだらだらしているのだが、その日は皆足早に帰宅した。Bさんも「どうしたらいいかわかったら連絡網で電話するね!」と教室を飛び出していった。

 全員が帰宅したであろう夕方頃。Bさんから連絡があった。

 夢を見てしまった連中はBさんと一緒におはらいに行かなければならず、夢を見てない側もあやうい状況のようで、
 「例の家の前に行って、謝れば大丈夫」
 とのことだ。

 えぇ~、マジか。Aさんは内心でつぶやいた。
 その後、まずはBさん家の前で集合し、話を聞いた全員で例の家のなにかに謝りに行く、ということ話になった。

 Aさんが放課後に集まっていたメンバーとともに集合すると、Bさんは「大事になっちゃって本当にごめん」と今朝教室でやった以上に謝り倒してくる。
 本人には悪気が無かったわけだし、と、どうすればよいのかBさんに尋ねる。
 Bさんはなにか書かれた紙と清酒を取り出し、例の家の前まで行き、紙に書かれた文言を読み心の中で謝罪をすれば良い。とのこと。

 人数分のお経のような漢字がびっしり書かれた紙を配るBさんに、Aさんは
(急に集まったにしては手際が良いなぁ、親御さんが準備してくれたんだろうか)
などと感じたそうだ。お経のようなその紙、文章にはご丁寧にカタカナでルビも書かれている。これを読めばいいそうだ。

 ぞろぞろと皆で歩き例の家へと向かう。
 夢を見た中の一人がうわぁ……と思わずといった感じで声に出した。
 夢で見た通りの家だ。庭の草の生え具合に壁に蔦が這う様子、窓の色まで一致している。

 じゃあさっそく、と全員で紙に書かれたカタカナの羅列をまずは口に出して読んだ。そのあとに目を閉じて何分間か心の中で謝罪の気持ちを込めて、ちゃんとじゃなくてもいいから心の中で読む。憶えられなかったらその都度目を開けて確認してOKらしい。

 全員が目を閉じ読み終える。

 終わった終わった~これで大丈夫か~、などと安心するも、気が付けばBさんがいない。

 Bちゃんどこ行っちゃったの? とあたりを見回すと、一人がアレ……と家の方を指さす。
 藪と言っていいほどうっそうと茂った雑草の中、色のついた窓ガラスの前、そこにBさんが立ち、家の中を覗いている。

 中へは入らずに全員で近づき「おい、Bちゃん、どうしたんだよ!」一人の男子生徒が声を上げる。
 だがBさんは振り返らず
「あたしさぁ~。昨日の夕方話したじゃん。その時から怖かったんだよね」
 と言う。
「こうやって分厚い窓越しにコップとポットしか見てないじゃん。なのになんで紅茶が入ってたってわかるのかな。
 臭いもわからないし色もわからないのに。なんでかなぁ」

 その時に思った。夢で手を引いてた女の子って、まさか…?

「Bちゃんさ……この家の中入ったことあるの?」

 恐る恐る、少し震えている声音で先ほどの男子が怖いけど聞いた。

「入れるわけないじゃん。窓も頑丈だしドアも開かないし。
 でも紅茶だってわかる。味も臭いも思い出せるの」

 くるっとBさんは全員の方へ振りむいて、

「ということはあたし、家の中に入ってみんなとお茶会してた、ってことだよね」

 何を考えているのか見て取れない表情で言った。

 マズい事態になっている、一同はBさんを置いて全速力でBさんの家へ向かう。
 Bさんのご両親へしどろもどろながらも説明するも、Bさんからなにも聞いていなかったという。

 だが話を聞いたBさんのご両親の対応は早かった。
 家の奥から始めてみるようなサイズの懐中電灯をもってきたり、どこかへ電話を掛けたりした。そしてBさんのいる例の家へと向かうと、町内会の人たちも集まってきており、Bさんを家の敷地から運び出し、そのままBさんの家へ連れて帰った。

 Bさんのお母さんが「ちょっと娘を落ち着かせますので」と別の部屋へ連れていっている間に、AさんたちはBさんのお父さんによってBさん宅のリビングへと集められた。
「ご家族には私たちから説明するから」と言われ、町内会が用意したワゴン車にBさん、そのご両親とともに乗せられる。

 長い間車は走り山の中へ。だんだん夜も深まっていく。気が付けばAさんらはお寺の講堂のような場所へ連れてこられた。
 説明されたのは、この部屋から出てはいけないということと、トイレの場所(部屋の隅にあったらしい)だけ。
 それから体感では半日ほど、全員で講堂のような場所へ閉じ込められた。Bさんだけは別室に連れていかれていた。

 聞いたこともないお経のような何かを唱えながら講堂の周りを誰かに練り歩かれ、時々声が変わっていたことから交代制だったのだろう、Aさんはそう思った。
 翌日、太陽もだいぶ上り始めていたころ、それは終わり、Aさんたちは家へと送られた。
 
 後日、Bさんには今回の話をしたことも、例の家に行った記憶もなかったのだという。

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 この話にはもう少しだけ続きがある。
 
 時は流れてAさんたちも高校を卒業することとなった。
 あんなことあったよね~、と思い出話をしているなかで、今回の家の話も上がった。
 
 実は……とBさんが切り出す。
 あの日以降、今でも毎週土日になると山の上のお寺のような場所へ通っていて、お祓いのようななにかを受ける。それがまだ当分続くのだという。
 「あの時は本当にごめん」とBさん。
 それでも気のいいクラスメイト達はまぁ怖かったけど別にいいよ。と。


 その後Bさんに何か異常があったとかは聞かないが、しばらく経った今でもまだ、ひょっとしてまだ通い続けてるのかもしれない。そのぐらい残るものらしい。
 Aさんは話をそう締めくくった。

 そんな、ある一軒の家で行われていたパーティーのお話。

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 この記事は、ツイキャス「禍話」さんの怖い話をリライトさせていただいたものです。

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から書き起こした二次創作となります。

該当回『禍ちゃんねる 俺はこのリングで怪談やりたいんスよ回』

ツイキャス版
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youtube版
https://www.youtube.com/watch?v=S97c7FmX5SQ

●タイトルはドントさんのツイートから拝借しました。いつもありがとうございます。

https://twitter.com/dontbetrue/status/1145017888039768064?s=20&t=qY5ARGBUmFRTIi59kyUFIA

●あるまさんによる禍話簡易まとめwiki(簡易とはいったい…?)
https://wikiwiki.jp/magabanasi/


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