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命、在るものになりたくて(連載小説)

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小説「命、在るものになりたくて」(全22話)をまとめたマガジンです。
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#純文学

(22)そこにはいない

 私は、教師だった。  生徒に物を言い、導き、教える立場だった。  今とは違う生きかたをし…

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柴田彼女
4か月前

(20)嘘について

 中に入ると、看護師がいつかのように私を廊下の隅に追いやる。 「前も言ったけど、他の患者…

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柴田彼女
4か月前
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(19)あの頃わたしは確かにそこにいた

 犬塚さんとまた会ったのは、秋になってすぐだった。診察時間を昼手前に戻し、案の定何時間も…

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柴田彼女
4か月前

(18)惰性

 日々は続く。二週間に一度の診察は繰り返され、本格的な夏がくる。私は予約時間を夕方にずら…

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柴田彼女
4か月前

(17)スイートスポット

 スーパーマーケットの、値下げコーナーでスイートスポットまみれのバナナを買った。ほとんど…

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柴田彼女
5か月前
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(16)何者

 そこから更に一時間半、やっと自分の番がやってきた。担当医は四十代ほどの男で、患者の話を…

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柴田彼女
5か月前

(15)枠の中だけ

 再び涼やかなクリニック内に戻る。順番はまだまだ先だ。鞄から本を取り出して読もうとして、そこで一人の看護師が近づいてくる。 「名城さん。ちょっといいですか?」 「はい」  看護師に誘導され、薄暗い通路の端に立たされる。 「さっき、外でお弁当召し上がってたわよね?」 「はい。駄目でしたか?」 「ううん。お弁当はいいよ。むしろお弁当食べなきゃならないくらい待たせて申し訳ないね。悪いんだけど、どうしても混雑してしまうから時間通りに診察してあげられなくて」 「いえ、余裕をもってきてい

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(14)おいしそうだね

 十二時になっても当たり前のように自分の番はこなかった。私は受付の女性に一言断って、病院…

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柴田彼女
5か月前

(13)すなおメンタルクリニック

 朝、着替え、カーテンを開け、顔を洗い、朝食を摂り、化粧をし、髪を整え、それから弁当を作…

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柴田彼女
5か月前
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(12)記憶が支配する

 あしたは病院で、診察時間は十一時半から。どうせ二時間は遅れるから、お弁当を持っていかな…

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柴田彼女
5か月前

(11)逃走

 午後一時過ぎ、PCを開く。スマートフォンに入れてあるSNSをこちらでも覗く。たまに何か…

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柴田彼女
5か月前

(9)帰宅

 家に着いたころにはもうくたくたで、玄関では突っかけていたサンダルを揃える元気もなかった…

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柴田彼女
5か月前

(8)水の音

 肌によい成分でできた日焼け止めを分厚く塗って、薄手の白いカーディガンを着て、つばの広い…

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柴田彼女
5か月前

(6)丁寧な暮らし―3

 洗濯物は三日に一回、まとめて洗う。きょうはちょうどその日だったので、流れで洗濯機の前に立つ。  Tシャツやスカートは色が褪めないよう裏返しに、靴下はそのまま洗濯機の中へ、肌着やブラジャーは洗濯ネットへ、タオル類は使い終わるたびハンガーにかけ一度乾かしてあるので、三日に一回の洗濯でも嫌な臭いがしてくることはない。あとはハンカチや枕カバーを入れて、ちょうどいい具合の量になったのでスタートボタンを押す。ぎゅい、ぎゅい、と中身が揺れて、水が出てくる。同時、洗剤の量を教えてくれるので

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