小説 介護士・柴田涼の日常 139 意識消失を起こしていたヨシダさん、高橋さんの節約生活

 休みの日はあっという間に終わってしまう。翌日が早番ともなれば、もう夕方くらいからそわそわし出してしまい明日の朝に向けての準備がはじまる。弁当箱におかずを詰め、バッグには水筒を入れ、仕事着の用意をしておく。準備が終われば少し落ち着く。あとは目覚まし時計をセットすれば完了だ。

 翌日が早番だと、夕方になってからたとえば映画を見に行くなどといった外出は控えるようにしている。疲れが残るし、朝起きられるか不安だからだ。休みの日は調子が上がらず、だいたい夕方くらいにならないとエンジンがかからないので、次の日が早番だとほとんどどこにも行けないことになる。観たい映画があるが、それはまた今度のお休みのときにしよう。

 というわけで翌日は早番。出勤すると、夜勤の平岡さんからヨシダさんはベッド上で食べるから起こさなくていいと言われた。ヨシダさんは昨日のお昼過ぎに意識消失を起こしてしまい、それからずっと臥床対応していると記録にあった。その前から前傾がひどく、傾眠がちだったが、何が原因かはわからない。ナースの高橋さんが貼り薬を貼るのを手伝っていると、「この方、前はもっと肌が白かった気がするんだけど、黄色くなってきましたね。顔も黄色いし」と言った。「肝臓がボロボロなんじゃないの」と真田さんは言う。パーキンソン病のヨシダさんは長年にわたりいろいろな薬を服用してきた。夜も開眼したまま寝ており、眠れているのかどうかわからない。

 朝食は平岡さんが介助し、昼食の味噌バターラーメンは僕が休憩時間をずらして介助した。スープを入れると麺が伸びてしまう。この日は遅番の安西さんと早遅対応の日だったので、ベッドにいるヨシダさんの介助が一人だとできない。そこで僕が残って昼食の介助をしてから休憩に入ることにした。ヨシダさんはラーメンのスープまで飲み干し完食された。

 休憩から戻ってくると、安西さんはヨシダさんの排泄介助には入っておらず、リビングで手をぶらぶら前後に振りながらテレビを見ていた。翌日にお風呂に入るご利用者の着替えを用意することもせず、リネン交換もせず、何をするでもなくただテレビを見ていた。平岡さんには「いままですみませんでした。あと残り少ないですけどちゃんと働きますので」みたいなことを言っていたそうだが。ほんとうに口ばっかりの人だ。

 ヨシダさんの血圧を測ると大丈夫そうだったので、起こしてトイレに連れて行くことにした。十一時に見たときに少量の軟便が出ていて、ガスも出ていたのでまだ出そうな感じがしたからだ。トイレに座り便が出ると脱力してしまい、座位保持も難しくなってしまったので、安西さんと二人で立たせてズボンを上げてまた臥床対応を取ることにする。夕食もナースに介助してもらうことにして、今日は一日ベッド上で過ごしてもらうことにする。

 センリさんは右下の奥の歯茎に炎症が見られるということで、義歯装着はせずにご飯を食べるということになっていた。ヤスダさんは二日前に便ショックで意識消失を起こしたようだ。ご飯を食べることが怖くなり、食事量も減っていたが、今日は普通に食べられていた。二日も離れているといろいろ変化があって戸惑ってしまう。

 休憩時間はナースの高橋さんと一緒になった。高橋さんは節約にハマっているらしく、味噌汁もインスタントのカップを買うのをやめ、ラップに包んだ味噌とワカメをコップに入れお湯で溶かして作っていた。お弁当もYouTubeで仕入れたやり方で作ったらしい。洗濯用の洗剤も大きなボトルのものを買ったと言っていた。僕も節約生活の動画を最近見て、エアコンの暖房やガスファンヒーターを使うより電気毛布を使ったほうが電気代を節約できると言っていたので、その話をしたら、「わたしもこたつとか電気毛布使ってますよ。投資の資金を確保するために必死で節約してますから」と言った。

「戦争ゲームはやってますか?」

「もう引退しましたよ。戦争ゲームなんてやってる場合じゃないですよ」

 休憩時間にスマホを使っていろいろ電気毛布を見てみたが、買った人のレビューを読んでいるとどういう点に注目すべきなのかがわかってくる。コントローラーの位置だったり、毛布の肌触りだったり、タイマー機能だったり。そのなかで自分がいいと思うものを選んで、あとはお財布との交渉だ。しかし、いろいろ選べるのはいいが、時間が取られてしまう。お店で買えば、もっと楽に早く済むことだろう。居ながらにして購入できるのはいいが、いろいろ選べるとその分だけ迷いも深くなる。

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