小説 介護士・柴田涼の日常 162 家事は手早く済ませる倹約家の高橋さん、食席の変更、安西さんと同類の間宮さん

 倹約家の高橋さんは、二週間に一回しか買い物に行かないそうだ。業務用スーパーに行き、カットされた野菜とかを使うと生ごみが出ないし、調理も手早く済ませることができる。ちゃっちゃと家事は済ませて早いときには二十一時にはもう寝てしまうそうだ。「わたしは家事は手早いんですよ。一日七時間寝ないとダメだから、早く済ませて早く寝ちゃうんです」「戦争ゲームをしていたときも早く寝てたんですか?」「戦争ゲームしてたときは夜更かししてましたね。でももう引退したから」。一緒にいた緑川さんに、「二十二時頃眠りにつくとき、ああ、緑川さんはまだ仕事をしてるんだなと思いながらにんまりとして寝るの」と言っていた。緑川さんは遅番のとき、定時の二十一時では帰れず、いつも帰るのが二十二時を過ぎてしまう。ケースを打つのが遅いからだ。「医務ではね、緑川さんみたいな人がいればな、って言ってるの。お正月も出てくれるしね。なんだかんだ、毎日緑川さんのことは話題にのぼってるのよ」と高橋さんは言った。

 ヨシダさんは排便マイナス七日だったが、お風呂場で多量の普通便が出て、その後おやつ前にも多量の普通便が出た。清拭を拭くそばから新たな便が産まれ出てくるので介材倉庫との間を何度も行ったり来たりした。さすがにこれだけ出ればすっきりして気持ちいいことだろう。この日は久しぶりに発語も聞かれ、お風呂に連れて行くとき「楽しみです」と言われたりした。

 おやつ前にご利用者の食席を変更した。キサラギさんが食事介助が必要な状態で戻ってきたので、トキタさん、ヨシダさん、センリさんの合わせて四人を介助しなければならない。加えて、イマイさんのむせ込みが心配なので、この五人を同一のテーブルに配置する。スペースの関係から、大きなテーブルの位置を入れ替えた。すると、ヤスダさんが「部屋まで変わるの?」と不安気な表情で平岡さんに訊いてきた。「部屋は変わらないから安心して。テーブルに座っている人たちも今までと同じだから」と平岡さんは声をかけた。おやつ後のトイレ誘導が終わったあともヤスダさんは新しい座席の位置に落ち着かない様子である。

 遅番の間宮さんは、おやつの介助が終わるとどかっとトキタさんの横に座ってスマホをいじりはじめた。ゴミ捨てには行かない。使用済みの清拭袋も溜まっていたが下ろさない。仕方なく僕が下ろしに行く。早番はケースを打たないといけないので、あまり時間に余裕はないが、ここで行っておかないとお風呂介助をしていた日勤の平岡さんに負担がかかってしまう。スタッフルームにパソコンで今日の出勤者の入力を行おうとすると間宮さんがせんべいをぼりぼり食べていた。この人も安西さんと同類だなと思った。それでいて僕には、「そこで飲まないで」と注意したりする。

「飲むならキッチンの中に入って飲んで。利用者の見えるところで飲まないように」

「安西さんはいつもここでペットボトルをラッパ飲みしていたので、悪いところを真似てしまいました」

 家に帰り、ご飯を食べると寒くて散歩に行きたくない。「一度行かなくなるともう行かなくなっちゃうね」と母に言われたので、しぶしぶ外に出る。外に出てしまえばあとは惰性により動くことができる。久しぶりに歌も歌い、ストレスを発散する。この日は夜中までゲームをした。

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