「水泳」について

50m自由形に参加させられたんですよ。
僕、カナヅチなのに。

姉が、勝手に履歴書を送ったみたいで、僕が知らないうちにね。
気付いたら、参加することになってて。

まぁ、どうせ出るなら、真ん中がいいかなと思って、真ん中のコース選んで、飛び込むところでストレッチしてたんです。

んで、ぱって見たら、僕の隣のコースがおじさんだったんです。
自由形の自由って、誰でも参加自由ってこと?
って、思ってたら、そのおじさんのもうひとつ隣、
僕から見たら、もうひとつ奥のコースが、
そのおじさんそっくりのトドだったんですよ。

自由形すぎるよ。動物もありなの?
んで、おじさん、おじさんそっくりなトドって並んでて、
僕が空気読めないみたいになってるんですよ。
もうひとつそろえば消えるのにみたいな。怖いこと言ってるよ。

そのトドがね、誘ってきてるっていうか。
花魁みたいな、足を斜めにそろえる座り方をしてる。
「坊や~~」みたいな。「こっちおいで~~」みたいな。

そんで、そのトドが、結構タイプだったんですよ。
んで、僕、迷いました。
プールじゃなくて、トドの胸に飛び込もうかと思いました。
んで、飛び込むポーズから、しばらく動けなかったです。

そんなことしてたら、「ちょっとちょっとー、自由形だからって何でもありなんですか?」って、声が聞こえて。
見たら、ペリカンね。
自由形とはいえ。やりすぎだろ。

でも、そのペリカンがね
「似てるやつが二人並んで、俺が空気読めないみたいになってません?」
って。
同じ志を持ってたんですよ。
同じ悩みを持った、そろえて消されそうになった、仲間だったんですよ。

「まあまあ」って、おじさんが止めてて。
誰が止めてんだよって、思って。
そのまま、スタートする感じになったんですよ。

「よーい、スタート」ってなった瞬間、
ペリカンが空飛んだんですよ。
裏切り者!お前は、ほんとに空気読めてないぞ!

それで、僕は、25mも泳ぎ切れなかったですよ。
カナヅチだから。





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