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馬の骨になる方法

「今でしょ!」のH先生が「死馬の骨を買う」という格言の解説をしていた。
「損して得とれ」みたいなこと? と思っていたけれど、実際にこの言葉を使ったことがないため、意味をちゃんと調べたこともない。
せっかくなので、H先生に教えてもらうことにした。
 
この格言は、中国の故事から生まれたものなのだそうだ。
あるところに名馬がいると聞き、王が使いの者に大金をもたせて買いにいかせる。
ところがこの使者は、「なんかー、その馬ー、死んじゃってたんでー」と予算の半額を投じて、死んだ馬の骨を買ってきた。
王はもちろん激怒する。そりゃそうだ。
 
でも使者は、怒る王にビビりもせず持論を展開する。
「いえいえ王さま。あなたさまが名馬の骨に大金を払ったことが噂になれば、生きた名馬ならとんでもない値段で買ってもらえるだろう、と考える者が出てきます。ってことで、あなたさまはきっと、近いうちにすばらしい馬を手に入れることができるでしょう」
私が王さまだったら、「ヘリクツ言うなー!」とクビにしてしまいそうだけれど、この王は寛大、または決断力がとぼしかったのだろう。
ボーッと待っているうちに馬を売りたい人が続々とあらわれ、結局、名馬を3頭も手に入れましたとさ。
 
……なんてたとえ話をして、
「優秀な人材がほしいなら、まず凡人を優遇してみるべし。そうすれば優秀な人が向こうから寄ってきますよ」と説いた人がいた。
……なんてことから、「死馬の骨を買う」=「たいしたことない人を優遇して、優秀な人を集める」という意味が生まれたのだそうだ。
あああああ、ややこしい。
 
 
なるほど。今の時代にも、
「あの程度のぼんくらがけっこういいお給料をもらっているなら、超優秀なあたくしにはその数倍払ってくれるはず!」なんて考えて転職を決意するデキる人がいるのかもしれない。
でも、見逃してはいけない。
この話でいちばん得をしているのはだれか?
よい職に就くことに成功する優秀な人や、よい人材を手に入れる経営者ではない。
優秀な人を釣りあげるための「撒き餌」にされる凡人だ。
 
だってたいした働きもせずに、いいお給料をもらえるのだ。
ダメ社員に割高なお給料を払わなければならない社長のような金銭的負担もなければ、転職する優秀な人のような「高額のお給料に見合う仕事をしなければ」というプレッシャーもない。
大切なのは「凡人がいいお給料をもらっている」という事実なのだから、仕事がデキてしまっては、かえって会社に迷惑をかけることになる。
だから、頑張らずにぼんやりしていればいい。
 
決めた。
今日から私の目標は「死んだ馬の骨」だ。
他人が聞いたら「え、ウソ? そんなに?」と驚くようなギャランティをいただきつつ、成果は出さない。
いや、出してはいけない。
私の仕事は「撒き餌」になることなのだから。
ああ。明日あたり、こんな仕事の依頼が来ないかなあ。
「死んだ馬の骨」となる人材をお探しなら、私が適任です。
成果を出さず適当に働いてそこそこいい思いができるような仕事になら、死力を尽くし、精魂込めて取り組む所存です。

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