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おとぎ話は続く

幼児の頃から、お姫さま系のおとぎ話には入り込めなかった。
ヒラヒラのドレスや巻き毛にリボン、みたいなファッションへの憧れがなかったせいかもしれない。
絵本の中の10頭身の王子様より加藤茶をかっこいいと思っていたせいかもしれない。
私の美的感覚には、何か生まれつきの問題があるのだろうか。
 
そんなわけでおとぎ話を比較的冷静に読んでいた私は、「ピンチに陥ったお姫さまを王子さまが救い出し、ふたりは結婚してめでたしめでたし」という終わり方には常に不満を覚えていた。
笑える要素をすべて排除し、「ステキ感」だけを前面に押し出すストーリーにがまんして付き合ってきたのだ。
それなのに、ここで終わり?
本当におもしろいのは、ここからじゃないの……?
 
 
白雪姫も眠り姫も、王子のキスで目を覚まし、そのまま嫁入りしてしまう。
まず、この設定がおかしい。
恩人かもしれないけれど、初対面の男性だ。
いきなり結婚だなんて、そんな無鉄砲な女性がいるだろうか。
 
そもそも、相手の「王子」という身分だって本当かどうかわからない。
絵本で見る限りそれっぽい服装はしているけれど、王子を自称し、王子っぽく見える人が本物の王子とは限らない。
勢いで嫁いでみたら、実はその男は「王子詐欺」の一味の親玉で、
姫は悪事の片棒を担がされ、警察に怯えつつ一生を送る……なんて可能性もある。
 
本物の王子だったとしても、将来の幸せが保証されているとはいえない。
森の中で寝ている女性に、「おお美しい」とキスするような男だ。
結婚したからといって、美しい女性を見れば「おお美しい」と
せまらずにいられない気質はかわらないのではないか。
姫は王子の浮気に悩まされつつ一生を送る……なんてことも考えられる。

 
王子目線からも考えてみなければ不公平だろう。
王子は姫に惚れたわけではなく、単なる「いい人」だったのかもしれない。
目の前に悪い魔法で眠らされている女性がいて、どうやら自分のキスで復活できるらしい。
困った状況に陥っている人を見過ごすことはできず、王子は人助けのためにキスをする。

女性は無事に目覚めるが、なぜか意識を取り戻した瞬間から自分と結婚する気満々なのだ。
「ありがとうございます、王子様。
 あなたは私の美しさにクラクラしてキスをなさったのですね。
 無理もありません。私、絶世の美女ですから。
 助けていただいたご恩に報いるためにあなたの妻になります。
 この美しい私が妻になってさしあげます。
 どうですか、うれしいでしょう?」
なんてグイグイくるわけだ。
優柔不断な王子は押しきられる形で結婚し、思い込みの強い妻にふりまわされつつ一生を送る……なんて結末もありそうだ。

 
王子と姫が一目惚れし合って結婚した場合だって、先のことはわからない。
最初はラブラブだとしても、白雪姫は7人もの子分にかしづかれて暮らしてきた女性だ。
夫ひとりにチヤホヤされるだけでは足りず、いずれは「もっと私を構ってちょうだい」とワガママぶりを発揮することになるだろう。
眠り姫だって、人生のほとんどを寝て過ごしてきたのだ。
王族の務めを果たそうともせず、一日中ゴロゴロウダウダして王子を困らせるだろう。
結局、「性格の不一致」を理由に数年で離婚。
お金もちだけに、財産分与でモメながら一生を送る……なんてことになっても不思議ではない。
 

昔の私のように定番のおとぎ話に不満をもつ幼児には、結婚で終わりにする恋愛ドラマ仕様のストーリーより、山あり谷ありの一生を描ききる大河ドラマスタイルのおとぎ話が喜ばれるのではないか。
大河ドラマスタイルのよさは、読者の反応がよければ続編やスピンオフをいくらでもつくれることだ。
先に紹介した「詐欺師編」「浮気編」「気弱な夫編」「電撃婚は続かない編」のほかにも、バリエーションは無限。
主役を張れる人気キャラはそれなりにいるのだから、
「シンデレラ・王国乗っ取り編」「親指姫・戦国死闘編」「シン・ラプンツェル」なんてのもアリだ。
出版社はさぞ儲かることだろう。
 
さまざまな世界で生き抜く姫の姿を描いてみせることは、これから世界をしょって立つ幼児たちに人生には無限の可能性があることを知らしめることになる。
なんと素晴らしい幼児教育だろう。
そしてザクザク儲かった出版社からは、私のような末端のライターにもおいしい仕事の発注が増えるに違いない。

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