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忍者恋文(ラブレター) ①

「若様」
囁く者がある。何者だろう夜更けに。彼はその時下女を呼ぼうとしていた。ここに移って以来身の回りの世話をさせていたが側女にしようかと考えていたのだ。
「奥方様より文でございます」
忍びのなりの者がいた。

 妻は有力な武将の姫だが年上で可愛げのない女だった。文を開くと忍びは
「キツネにくれぐれもご用心とのお言葉です」とつけ加えた。
「なんじゃそれは」あの下女か?

忍ぶれど色に出にけりわが恋は
者や思ふと人の問うまで
恋すてふわが名はまだき立ちにけり
文知れずこそ思ひそめしか

 男は刀を抜いた。
「よくも! 出会え!」
手裏剣が飛び忍びは捕えられた。妻はすでに討たれ岳父の城も攻め落とされている。こうなったら呑気に信じた振りで反撃の機会を狙うしかない。下女は武者の姿をしていた。
「姫様の仇はきっと討ちます」

 妻からの最期の文は恋文と見せかけた暗号であった。(物が者人が文になっている。コレを届けた物⇔人つまりキツネではない、に気をつけよ)

410文字


たらはかに様のお題に参加しています。

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