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「涙鉛筆」③

「あれれ? ねえ翔斗先輩、これどう思いますか」
 孝子は図書係から図書委員に昇格していた。僕はアミダで負けて委員長にされた。二人で傷んだ絵本の修理作業をしていたときのことだ。見ると「ぐりとぐら」のおそらく『ぐり』の目から涙がごぼれている。いや、そう見えるけど汗かもしれない。あるいはヨダレだろうか? 水滴のお約束のドロップ状の図形が描きこまれている。
「落書きだね。鉛筆でやられたんなら、消しゴムで消せるんじゃないかな」
「はい、やってみます」
消しゴムでその個所をこするとぐりの顔色も少し色落ちした。
「やだっ、この本、ぐりもぐらもほかの動物たちも全員泣いています」
「しょうがないなあ。どうして本を大事にしないんだろう」

 僕らはそのときまだ知らなかった。その絵本が亡くなった子どもの遺品で学校の図書室に寄付されたことを。その子はネグレクトされ餓死した状態で暑くて狭いアパートの一室で発見された。手足は鉛筆のようだったらしい。

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ショートショート王様③の続きです。

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