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「ショートショート王様」③

 図書室の床に一冊の本が落ちていた。
『ぞうのたまごのたまごやき』だ。
何気なく拾い上げると誰かに声をかけられた。
「その本面白いよね。わたしも大好き」
新人の学校司書だろうか、見慣れない女の人がエプロンを身につけて立っている。ぼくは曖昧にうなずいて本を手渡しその場を離れた。返事もしないのは悪いと思ったけど、ハッキリ言って、対応に困る。ぼくの名は翔斗。名は体を表してチビだ。寺村輝夫のぼくは王さまシリーズなら低学年の頃よく読みましたよ、そんなことを言われても相手だって気まずいだろうし。結局文庫の棚の『宇宙のあいさつ』と「殿さまの日』の2冊をカウンターに持っていくとさっきのエプロンの女性がいた。
「あの、すみませんでした。自分と同じくらいだと思って」
と顔を赤らめる。『としょがかり』の腕章の色は2年生のそれだった。

 彼女の背を追い越して、さらにずいぶん経った。きょうはショートステイか。椅子ごと運ばれて、王様気分だ。

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