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新説なピン札 ①

 へいさん、おや留守だね。このあいだは本当にごめんよ、あたし知らなかったんだよあんたのおっかさんが病だったこと。もう手遅れだけどせめてこれでも食べて元気になっておくれよ。おこんは山で採った木の実や近所の畑から掘り出した根菜類を載せた籠を土間に置いた。奥の間の引き戸が少しだけ開いている。そこから何かが見えた。まとめ買いしたティッシュの箱だろうか。もう少し小さい。それは糊とインクの香りを発する和紙をきちんと束ね直方体に積み上げた箱のようなものだ。だがおこんの嗅覚はそこに自分以外の女狐の気配を敏感に感じ取っていた。
「いい事思いついた!」彼女は口に出した。

「お奉行様、勘弁してください、オラ知らんです、友だちに動画撮影する小道具だから預かってくれと頼まれただけなんです」
「嘘つけ! 変装用のカツラやメイク道具も押収したからな。おや? この香りは、焼き芋か?」

 裏の林の落ち葉らしき小さな山から青いけむりが細く上がっていた。

410文字

「新説 ピン札の行方」より

参考文献 新美南吉「ごんぎつね」


たらはかに様の裏お題に参加しています。

こちらで今回拙作を紹介していただきました。ありがとうございます😹

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