ブーメラン発言才色両道編
「いったいどうしたらいいのかしら」
平凡な少女は悩んでいた。明日は『孔明と美周郎』のオーディションだというのに課題の手掛かりがまだつかめないのだ。
「10万本の矢を用意すること。手軽に迅速に」
こんなときあの人ならお付きの者に命じて電話一本で取り寄せさせるに違いない。かしこまりましたお嬢様とか。
「失礼!」
サングラスの人物が少女にぶつかりかけその勢いで一冊の本が棚から落ちた。
「三国志赤壁編」?
むさぼるようにそれを読んだ少女は急いで藁人形を用意して舟に乗せた。
「うまくやってくれた?」
「はいお嬢様」
お嬢様は不敵な笑みを浮かべ受話器を手に取る。
「今夜敵の舟が攻めてくるけど矢を放ってはなりません、ブーメランを飛ばすのです」
なんと相手方に密告していた。
そして当日。飛来したブーメランは藁人形を倒すとすべて元の陣営に戻っていった。
「⚪︎ユミさん、恐ろしい人」
⚪︎︎ヤは青ざめた。
「どっちが? どこの藁人形がブーメラン炎上させとんねん!」
410文字
実のところ人が自分を棚に上げて好き勝手に発言するのは決して珍しいことではない。だがそれだけではブーメラン発言とは認可されないのだ。誰かが「奴の言葉はブーメランだ!」と指摘しなければならない。さらに同調者が「そうだそうだ」と煽らねばならない。マスコミがそれを活字化してようやく一人前のブーメラン発言と呼んでもらえるのだ。それは演技力のある役者は大勢いるけれど観衆の顔に影ができたりライバルの瞳が白ヌキになるまで待ってようやく「天才」と認められるのに似ていなくもない。
架空の人物と無関係です。
たらはかに様のお題に参加しています。
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