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星屑ドライブ

 一面の菜の花畑の真ん中に車を停めるとあの人は
「もうすぐシネマが始まるよ」
と言った。こんなところにドライブインシアターが? 見渡す限り車は私たちだけだ。
「ほらね。東の空をみてごらん」
そこにあったのは白っぽくて丸いスクリーンだった。沈みかけた映写機の最後の投影を受け取って静かな微笑を湛えていた。映画館の座席で私たちは大胆に振る舞った。音を立てて飲み食いし互いに言いたいことを言って、泣いたり笑ったりもした。ふと気がつくとずいぶん時間がたっていた。
「見て。あのスクリーン、どんどん高くなっている」
あたりは暗くて肌寒かったけれど、むしろ快適に思えた。かれは饒舌で春の大三角は正三角形に程遠いとか、世界は子グマの尻尾を中心に動いている、などと語った。たぶんあの美しい月だの子グマの尻尾以外にもこの世界には沢山の星屑があることを検証する必要があった。だから私たちは練炭をトランクに移動させると帰宅の支度をしたのだった。

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たらはかに様の裏お題に参加しています。

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