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半笑いのポッキーゲーム

「父さん、ただいま」
病室に立ち寄り無反応の父親を相手に世間話をするのが彼の日課になっていた。テレビはつけっぱなしだが視聴しているのかは定かでない。母の死後全ての反応を失っていた。
(外は暑そうだな)
「父さんとの初デートの話を母さんから百万回きかされたあの遊園地はもうなくなったんだよ」
(ニュースで見て知ってるよ)
父の目に光が宿った。脳裏にはタライに浸かった幼子の映像が流れていた。流れる滑り台の先はプール。父の口元に微かな笑みが浮かんだ。「なんだか調子良さそうだね。これマリ子の手作りだよ。父さんのクリスマスプレゼントのおかげですっかり本好きに育ったよ」
(テーマパークに行ったんだな? これは杖だ。小麦粉と塩とバターをこねて焼いた力作だ。こっちの棒状の焼き菓子は細すぎる。まるで針のようだ。お前少しやつれたな。会社はどうした。まさか辞めたのかっ)
「あれっ」
ポッキー状に直線を描いていた父の意識を示すモニターに変化が生じている。

「看護師さん来てください、もうポッターゲームは必要ないです」
息子は笑顔で叫んだ。

452文字

(おいおい間違えてるぞ。ポッキーゲーム目当てでフリしとるのがわからんのか)

字数オーバーしました。

たらはかに様のお題に参加しています。

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